会長声明 2015年12月28日 (月)
高浜原発3,4号機及び大飯原発3,4号機差止仮処分福井地裁決定に対する会長声明
福井地方裁判所は,2015年4月14日,関西電力に対し,高浜原発3,4号機の運転差止めを命じる仮処分決定を出した(以下「原決定」)が,同年12月24日,上記仮処分を取り消して住民らの申立てを棄却する旨の決定をした。これにより,高浜原発3,4号機の運転が認められることになったわけである。一方,大飯原発3,4号機については,規制委員会の審査が未了であること等を理由に保全の必要性を否定して,申立てを棄却した(以下まとめて「本決定」)。
周知のとおり福井地裁は2014年5月21日,大飯原発3,4号機の運転差し止めを命じる判決を言い渡したが,関西電力や規制委員会は,この判決の重要な指摘,例えば,①従来と同様の手法によって策定された基準地震動では,これを超える地震動が発生する危険があり,とりわけ,4つの原発に5回にわたり想定した基準地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来していること,②地震における外部電源の喪失や主給水の遮断が,700ガルを超えない基準地震動以下の地震動によって生じ得ることに争いなく,これらの事態から過酷事故に至る危険性があること,③使用済み核燃料は,福島原発事故において,実際に起こったよりも重大な被害をもたらすおそれがあったが,原子炉格納容器ほどの堅牢な施設に囲われることなく保存されていること,を真摯に受け止めることなく,高浜原発の再稼働に向けての手続を進め,また設置変更を許可した。
本決定は,高浜原発について,基準地震動の策定方法が不合理とはいえないことの理由として,基準地震動策定で用いている耐専スペクトルが不合理とは言えないことを指摘しているところ,大飯原発では同スペクトルを用いておらず,このことは,大飯原発における基準地震動策定の不合理さを示唆するものである。しかしながら,多くの地震学者が,地震予測に関する現在の科学的知見には限界があること,数値計算に少なくとも倍半分程度(+100%~-50%程度)の誤差があることが避けられないことを指摘しているところ,この指摘は,高浜原発についても妥当するものであり,十分考慮されるべきものであった。
当会は,2012年7月18日に会長声明を発表し,同声明において,深刻な原子力発電所事故による日本の国土や国民への被害の再発を未然に防止するという観点から,確実な安全性が確保されないまま,安易に大飯原発の再稼働がなされたことに抗議した。また,2013年10月18日に福井市で開催された中部弁護士会連合会大会(以下「中弁連」)の宣言において,中弁連は,裁判所に対し,原子力発電所をめぐる行政訴訟及び民事訴訟においては,行政庁の科学技術的裁量を広く認め,又は原子力発電所の危険性について住民側に過度の立証責任を課したため,行政庁や事業者の主張を追認するだけで,科学的専門性に踏み込んだ十分な審理が行われてこなかったことを真摯に反省し,今後の原発訴訟においては,原告住民側の立証責任の軽減など審理方法の改善を図るよう求めた。
本決定は,とりわけ高浜原発の審理において複数の科学的知見の存在を十分に検討したのかどうか疑問が残るところである。「安全」であるかどうかの判断基準として,福島原発事故の経験を踏まえて「危険性が社会通念上無視し得る」かどうかという規範を定立した以上,当然,上記中弁連決議が指摘したように,批判的科学者・技術者の知見によっても安全と言えるか,という検討を加えなければならない。本決定には,規範とあてはめが整合していないきらいがあると考えられる。
当会は,事業者及び国に対し,本決定が,批判的科学者・技術者の指摘を踏まえた安全対策を求めていることを重く受け止め,安全審査及び審査の在り方を抜本的に見直し,大飯・高浜原発以外の原子力発電所についても,前記の当会声明の条件が完全に満たされ,確実な安全性が確保されない限り,その稼働をしないよう強く求めるものである。
2015年(平成27年)12月28日
福井弁護士会
会長 寺田 直樹