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声明・意見書

会長声明 2013年11月27日 (水)

通信傍受の安易な拡大と会話傍受の導入に反対する会長声明

1 法制審議会新時代の刑事司法制度特別分科会では,取調や供述調書に過度に依存した捜査や裁判のあり方の見直しや,取調の可視化(取調の録音・録画)等について検討を行ってきたが,2013年1月29日には「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」をとりまとめ,その後も検討を重ねて,早ければ年度内にも結論をとりまとめる予定とされ,その後,法案化がなされることが見込まれる。
2 上記「基本構想」及び同分科会での最近の検討状況によれば,「通信傍受の合理化・効率化」として,現在,薬物関連犯罪,銃器関連犯罪や組織的な殺人等の重大な犯罪に限定されている通信傍受の対象犯罪を,通常の殺人,逮捕・監禁等,窃盗・強盗等,さらには「その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」にまで広げることが検討されている。
  また,同分科会では,これまで認められていなかった「会話傍受」の導入が検討され
ており,「①振り込め詐欺の拠点となっている事務所等」「②対立抗争等の場合における暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両」「③コントロールド・デリバリーが実施される場合における配送物」を対象に,捜査機関が傍受機器を設置し、犯罪の実行に関連した会話等を傍受することができるようにすることが検討されている。
3 しかしながら,通信傍受は,憲法が保障する通信の秘密を侵害し,ひいては,個人のプライバシーを侵害する捜査手法である。それゆえ,通信傍受が憲法上許容されるのは,「重大な犯罪」について,捜査上「真にやむを得ない」と認められる場合に限られると解すべきである(最高裁判所平成11年12月16日決定参照)。
  このことを踏まえると,通信傍受の対象犯罪は限定的・謙抑的であるべきであり,通信傍受法施行以降の運用状況についても,慎重な検討が加えられなければならない。専ら捜査上の有用性の観点から,安易に通信傍受の対象犯罪を拡大することは,許されないというべきである。
  ましてや,対象犯罪について,現行の通信傍受法では厳格な限定列挙がなされにもかかわらず,「その他重大な犯罪であって,通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」などという,およそ限定の効果をもたない規定を法案に盛り込むことは,断じて許されない。
4 また,捜査機関が住居や車両に傍受機器を設置し,会話等を傍受する会話傍受は,通信事業者の立ち会いの下で行われ,必要に応じて傍受の中断や終了が容易にできる通信傍受と異なり,ひとたび傍受機器が設置されるといつでも傍受できる状態が長期にわたり継続することになるし,密室で行われるため,内容的にも時間的にも無制約に傍受がなされるおそれがあり,犯罪と無関係な個人の会話等を傍受される危険性も高い。このように,会話傍受は,捜査機関による権限濫用のおそれも大きく,通信傍受以上に個人のプライバシーを侵害する危険性の高い捜査手法である。
 しかも,現在検討されている前記①〜③の対象についても,①は,振り込め詐欺の拠点が特定されていながら,なお会話傍受までなされなければ捜査に重大な支障が生じるとは考えがたいし,②は,会話傍受が導入されれば,暴力団関係者は,犯罪に関連する会話は暴力団事務所や暴力団幹部の使用車両以外でするようになることが容易に予想されるし,③も,会話傍受が導入されれば,配送物を受け取った関係者は中身を確認するまでは会話をしなくなると思われ,いずれも会話傍受導入の必要性・有効性に重大な疑問がある。
  したがって,会話傍受は,プライバシー侵害の危険性の大きさに照らすと,それでもなお捜査手法として認める必要性があるとは到底認められず,導入することは許されない。
5 1986年に発覚した神奈川県警察による政党幹部宅盗聴事件の経験からも明らかなように,捜査機関が違法な盗聴に及ぶ危険は常に存在し,しかも,そのことはしばしば容易に隠蔽される。最近では,米国国家安全保障局(NSA)による盗聴が組織的かつ長期にわたり実施されていたことが,元職員からの告発により明らかになったが,この事件も,権力がいかに盗聴を濫用しやすいかを,改めて世に示したといえる。
 同分科会では,通信傍受の対象犯罪の拡大について「テロ関連犯罪」等にも拡大することが検討されているが,折しも,現在国会では秘密保護法が審議中であり,同法が仮に成立すれば,「テロ関連犯罪」に関する捜査情報は秘密指定され,秘密の陰に隠れて違法又は不当な捜査が横行するおそれすら,否定できない。このことを考慮すれば,捜査機関の通信傍受権限を拡大し,さらには,会話傍受というより強力で国民のプライバシー侵害のおそれが大きい捜査手段を捜査機関に与えることには,きわめて慎重であるべきである。
 以上の理由から,当会は,通信傍受の安易な拡大と会話傍受の導入に,強く反対する。

2013年(平成25年)11月27日
福井弁護士会
会長 島 田   広

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