意見書 2021年02月17日 (水)
福井少年鑑別所の支所化問題に関する意見書
2021年(令和3年)2月17日
法務大臣 上川 陽子 殿
福井弁護士会
会長 八木 宏
第1 「福井少年鑑別所の支所化に反対する会長声明」に対する回答
当会は,福井少年鑑別所の支所化に対して,2020年(令和2年)10月26日に上記会長声明を発出し,福井少年鑑別所視察委員会(以下「福井委員会」という。)の廃止につながる支所化に強く反対し,少年鑑別所の支所にも少年鑑別所視察委員会を置く旨の法改正を求めると共に,仮に福井委員会を廃止することになったとしても,名古屋少年鑑別所視察委員会(以下「名古屋委員会」という。)の委員に当会が推薦する弁護士が就任する運用とすべきことを求めてきた。
これに対し,先般,福井少年鑑別所から,支所化は予算の成立をもって決定すること,福井を担当する名古屋委員会のうち福井県の委員は1名であり,その1名につき当会には推薦を求めない旨の説明を受けた。
しかしながら,このような運用では,福井委員会がこれまで行ってきたような視察業務を継続することは極めて困難であり,視察委員会が本来有するべきチェック機能が働かず,在所者の処遇等に悪影響が及び,将来的に少年の人権擁護の観点から深刻な問題が生じかねない。
そのため,当会は,以下のとおり,意見を表明する。
第2 福井県の視察委員を複数名とすべきこと
1 支所化の問題点
(1)遠隔地の複数施設を視察することによる弊害
令和2年度現在,少年鑑別所の支所は全国に7か所(福井を除く)あるが,支所には視察委員会が設置されておらず,本所のみに設置されているため,本所の視察委員会が遠隔地に設置されている支所についても視察を行わなければならない。そのため,視察活動が制約されており,特に,在所中の少年が意見箱に投書をした場合や緊急的に面接を要請した場合に,迅速な対応ができない。
福井少年鑑別所の支所化により,名古屋委員会が,福井の他,既に支所化されている富山少年鑑別所(富山少年鑑別支所)の視察活動も担うこととなる。しかし,名古屋委員会が遠隔地の複数施設を視察することは唯でさえ困難を伴う上に,コロナ禍のために移動が制約されている現状も合わせ考えると,上記の弊害は極めて大きい。
(2)多角的な視点からの視察活動ができなくなること
視察委員会が,少年鑑別所において少年に対する処遇が適切か否かを判断するためには,少年の福祉に関する専門的知見,教育的知見,医学的知見,法的知見などの多角的な視点からの考察が不可欠である。しかし,福井委員が1名となった場合,名古屋委員会が遠隔地にある福井の視察活動を行うのには制約が伴うことから,多角的な視点からの視察活動ができなくなってしまう。
(3)入所時身体検査の現状
現在,少年の入所時に,全国の複数の少年鑑別所において全裸にしての身体検査が実施されているとのことであり,福井少年鑑別所においても,頭髪検査の際も含めて身体検査時に少年を全裸にさせている。これは,特徴の識別(少年鑑別所法24条),規律秩序維持(同法74条)のために行われるものであるが,目的との関係で必要な限度を超えているのではないかという問題を有し,弁護士委員の法的な考察が不可欠である。
2 複数の視察委員の必要性
以上の問題・弊害の解消のためには,福井委員を複数名とすることが不可欠であり,そのうち1名は弁護士委員とすることが必須である。
視察委員会は,平成21年に発覚した広島少年院における職員の在院者に対する暴力・虐待などの不適切処遇事件を教訓として設置されたものであり,少年や職員が声をあげることのできる,透明性のある施設運営が確保されなければならない。そして,現在においても,入所時の全裸での身体検査等の問題が現存しているのであり,視察活動の重要性は何ら変わっていない。
3 必要な施策(支所にも視察委員会を設置すること)
少年鑑別所法においては,「少年鑑別所」に視察委員会を置くと定められているのみであって(少年鑑別所法7条),支所に視察委員会を設置することを明文で禁止していない。
先般の会長声明においては,少年鑑別所の支所にも視察委員会を置く旨を明記する法改正を求めたところであるが,法改正をすることなく支所に視察委員会を設置することも可能である。福井少年鑑別所が支所化された場合であっても,福井に視察委員会を設置し,弁護士委員を含む複数名の視察委員をおくことを強く求める。
以上