会長声明 2020年10月26日 (月)
福井少年鑑別所の支所化に反対する会長声明
当会は,先般,福井少年鑑別所から,「令和3年4月1日から,福井少年鑑別所が名古屋少年鑑別所の支所(仮名「名古屋少年鑑別所福井少年鑑別所支所」)となる予定であり,その場合には,現在,福井少年鑑別所内に設置されている福井少年鑑別所視察委員会(以下「福井委員会」という。)が廃止されることになる。」との説明を受けた。また,福井委員会が廃止された場合,福井少年鑑別所の視察業務は,名古屋少年鑑別所視察委員会(以下「名古屋委員会」という。)が担うことになり,名古屋委員会の委員のうち1名は福井県内の関係機関に対し推薦を求めることになるとの説明を受けた。
少年鑑別所視察委員会は,平成27年施行の少年鑑別所法に基づいて設置された第三者機関である。平成21年に発覚した広島少年院における職員の在院者に対する暴力・虐待などの不適切処遇事件を教訓として,少年矯正施設に対する外部からのチェック機能を強化するとともに,地域社会との連携の充実を図ることにより,少年や職員が声をあげることのできる,透明性のある施設運営を目指して設けられた。慣例上,弁護士会,医師会,地方公共団体及び地域の住民自治会等の推薦により委員が任命され,所内の視察業務を担っている。具体的には,定期的に委員会を開催して施設運営の状況について職員から詳しい説明を受けるほか,必要に応じて施設内部への立ち入り,在所者(少年)との直接面談やアンケートを実施し,在所者の処遇上の問題点(食事,入浴,面会方法など)や職員の労働環境について,第三者的な立場で意見を述べる。福井委員会は,平成27年度から本年度まで上記推薦母体から推薦された委員4名(当会の推薦する弁護士1名を含む)で運営されてきた。年4ないし5回程度の委員会が開催され,弁護士委員が中心となって意見書を作成し,毎年提出してきた。
この度,福井少年鑑別所の支所化に伴い,福井委員会が廃止され,福井少年鑑別所の視察業務を名古屋委員会が担うことになった場合,名古屋委員会は名古屋少年鑑別所の視察業務に加え,すでに支所化された富山少年鑑別所支所,さらに福井少年鑑別所支所の視察業務まで加わり,限られた委員数で従前の数倍の業務を担うことになる。名古屋委員会の委員のうち,福井県内に所在する委員が1名のみだとすれば,その者に福井少年鑑別所内の視察業務が集中する結果,業務全体の質の低下を招くことが予想され,かつ,多角的な観点から視察業務を行うという本来の役割を果たすこともできない。さらに本所の名古屋,支所となる富山・福井では,委員間の往来やコミュニケーションが容易ではないため,仮に支所の委員において重大な問題を察知した場合も,委員会内で適時の情報共有や意見交換を行うことができず,支所の地域から選出された委員が一人で問題を抱え込むことになりかねない。
以上より,福井少年鑑別所が支所化した場合,福井委員会がこれまで行ってきたような視察業務を継続することは極めて困難である。このままでは視察委員会が本来有するべきチェック機能が働かず,在所者の処遇等に悪影響が及び,将来的に少年の人権擁護の観点から深刻な問題が生じかねない。そのため,当会は,福井少年鑑別所の支所化に,強く反対する。
また,少年鑑別所法は,「少年鑑別所に,少年鑑別所視察委員会(以下「委員会」という。)を置く。」(第7条第1項)と定めており,少年鑑別所の支所に少年鑑別所視察委員会を設置することを予定していないと解されるが,少年鑑別所の支所化が全国的な流れであるとも想定されることから,全国的に同様の問題が発生する懸念もある。支所化が避けられないのであれば,少年鑑別所の支所ごとにも少年鑑別所視察委員会を置く旨の法改正がなされるべきである。
加えて,福井委員会が廃止された場合,福井少年鑑別所の視察業務を担うことになる名古屋委員会の委員のうち,福井県内に所在する委員が1名のみであれば,当会が推薦する弁護士が就任できない可能性がある。この点,少年事件を担当する等して,少年及び少年鑑別所の特性や少年司法制度,少年の保護・更生に関して知識と経験を有する当会の弁護士が委員に就任する必要性は極めて高い。したがって,仮に福井委員会が廃止された場合であっても,名古屋委員会の委員に当会の推薦する弁護士が就任する運用とすべきである。
以上により,現行法では,福井少年鑑別所の支所化が福井委員会の廃止につながることから,当会は,これに強く反対する。併せて,少年鑑別所の支所化によっても,少年鑑別所視察委員会が廃止とならないよう,少年鑑別所法第7条第1項について,少年鑑別所の支所にも少年鑑別所監視委員会を置く旨の法改正を求める。仮に,福井委員会を廃止することになったとしても,福井少年鑑別所内の視察業務が今後も実効的かつ円滑に行われるように,名古屋委員会の委員に当会が推薦する弁護士が就任する運用とすべきである。
2020年(令和2年)10月26日
福井弁護士会
会長 八木 宏