会長声明 2025年08月01日 (金)
生活保護基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、生活保護利用者及び元利用者への補償を求める会長声明
2025年6月27日、最高裁判所第三小法廷は、大阪府内、愛知県内の生活保護利用者らが、2013年8月から3回に分けて実施された生活保護基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)に係る保護費減額処分の取消し等を求めた各訴訟の上告審において、厚生労働大臣による本引下げの違法性を認め、保護費の減額処分を取り消す各判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。
本引下げは、2011年から生活保護基準の在り方を検討してきた社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)の議論を経ずに、2008年から2011年の「物価下落」を反映したとする厚生労働大臣独自の「デフレ調整」を主要な理由として行われた。
本判決は、こうした厚生労働大臣の判断は違法であるとして、生活扶助の老齢加算廃止の判断が争われた2012年4月2日の最高裁判決で示された「判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査される」という趣旨に照らし、国に与えられた裁量を逸脱・濫用するものであり、違法と判断した。
当会は、かねてより、生活保護基準の引下げは、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」、すなわち生存権保障水準を割り込むものであるとして、早急な見直しを求めてきた(2018年3月1日付け「生活保護基準引下げに反対する会長声明」)。
本判決は、厚生労働大臣が、「個人の尊厳」(憲法13条)の基盤となる「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項、生活保護法3条)の重要性を軽視し、生活保護法8条2項によって考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して裁量権を行使したことを厳しく指摘するものであって、少数者の人権を守るという司法が担う役割を十分に果たしたものであると高く評価できる。
国は、本判決を受けて、本引下げが行われた期間中に生活保護を利用していた数百万人の利用者らの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」という極めて重要な権利を侵害した事態を深刻に受け止め、名古屋高等裁判所金沢支部をはじめ、全国の裁判所に係属している同種訴訟について全面解決を図るとともに、本引下げ前の基準によって受けるべきであった生活扶助費と実際の支給額との差額を支給するなど必要な補償措置を直ちに講じるべきである。
また、かかる事態を再来させないために、生活保護基準の改定をはじめとする生活保護行政において、恣意性を排除して統計等との合理的関連性を吟味するため、学識経験者による議論を経るよう法制上の措置を講じるべきである。
よって、当会は国に対し、上記補償措置と法制上の措置を直ちに講じることを強く求める。
2025年(令和7年)8月1日
福井弁護士会
会長 後 藤 正 邦