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声明・意見書

決議 2012年11月29日 (木)

生活保護基準の引き下げに強く反対する総会決議

第1 決議の趣旨
 当会は,来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対する。

第2 決議の理由
 政府は,本年8月17日,「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは,同月10日に成立したばかりの社会保障制度改革推進法(附則2条)において,「給付水準の適正化」を含む生活保護制度の見直しが明文で定められていることを受けて,「特に財政に大きな負荷となっている社会保障分野についても,これを聖域視することなく,生活保護の見直しをはじめとして,最大限の効率化を図る」と明記されている。
一方,生活保護基準については,2012年2月に設置された社会保障審議会生活保護基準部会において,学識経験者らによる専門的な検討が続けられているが,厚生労働省が本年7月5日に発表した「『生活支援戦略』中間まとめ」では,「一般低所得者世帯の消費実態との比較検証を行い,今年末を目途に結論を取りまとめる」ものとされている。そして,同省が公表している平成25年度の予算概算要求の主要事項には,生活保護費を抑制するための「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については,予算編成過程で検討する」と記載されている。
この点,平成22年4月9日付厚生労働省発表に係る「生活保護基準未満の低所得者世帯数の推計について」によれば,生活保護制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合は約3割に過ぎないとされている。生活保護制度の利用資格がありながら利用していない低所得者は,生活保護基準以下での生活を余儀なくされるのであるから,消費実態も生活保護基準以下となることは明らかである。そして,生活保護基準以下の低所得者が生活保護受給者の2倍を超えて存在する現状において,低所得者の消費実態と生活保護基準を比較すれば,生活保護基準が高くなることは明らかであるから,生活保護基準は際限なく引き下げられることになりかねない。
これら一連の事実から,本年末にかけての来年度予算編成過程において,生活保護法8条に基づき生活保護基準を設定する権限を有する厚生労働大臣が,生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至である。
しかし,生活保護基準は,憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を定めるものであって,我が国における生存権保障の水準を決定する極めて重要な基準である。かかる生活保護基準が引き下げられることによって,これまで生活保護を利用して生計を維持していた人々が保護を廃止されることになる上,生活保護利用者であるから利用できた各種のセーフティネットを利用できなくなり,生計を維持することが困難になる恐れがある。また,生活保護利用者でなくとも,生活保護基準を基に利用条件が設定されている国民健康保険料の減免や介護保険利用料の減額,公営住宅の家賃等の減免といった低所得者施策の対象範囲が狭まり,低所得者の生活を圧迫することになる。さらには,生活保護基準の引き下げは,最低賃金の引き下げ,基礎年金額の引き下げ及び住民税非課税基準額の引き下げをもたらすおそれがあり,市民生活全般に重大な影響をもたらすものとなるのである。
 厚生労働省によれば,本年6月時点で生活保護を利用している人は211万5000人を超え,世帯数としても154万2000世帯を超えているが,生活保護利用世帯の8割以上が高齢者,障がい者・傷病者,母子世帯である。これは,本来的な施策である年金制度や子育て支援といった社会保障機能が脆弱であるため,最後のセーフティネットである生活保護に頼らざるを得ない実情にあることを示している。本来的施策が整備されていない現状においては,より積極的に生活保護制度を活用し,貧困・格差の拡大を防止しなければならない。
 しかるに,財政支出削減を目的とする「初めに引き下げありき」という姿勢で政治的に決せられることは,生存権保障をないがしろにするものであって,到底許されるべきことではない。
 よって,当会は,来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対するものである。

2012年(平成24年)11月29日
福 井 弁 護 士 会
会 長  和 田 晋 一

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