会長声明 2009年07月27日 (月)
生活保護「母子加算」制度の法定を求める会長声明
生活保護における「母子加算」(削減前の月額は都市部で2万3,260円)は,厚生労働省告示により,段階的削減を経て本年4月1日に完全に廃止され,約10万世帯のひとり親世帯,約18万人の子どもが影響を受けることとなった。十分な医療を受けることができなかったり,高等学校への入学に際しての費用や学費が払えず,進学や通学を断念したり,また,修学旅行や部活動に参加できない子どもたちが続出することが懸念される。
このような母子加算廃止の論拠として,「一般母子世帯の消費生活水準との均衡」,すなわち,母子加算手当を受給している世帯の消費生活水準が保護を受けていない一般母子世帯の消費生活水準を上回ることが挙げられている。
しかしながら,かかる議論は,母子世帯の多くが深刻な貧困状態におかれ,少なくない母子世帯が生活保護の水準以下の生活を余儀なくされている不合理な実態を逆手にとるものである。厚生労働省が発表した「平成18年度全国母子世帯等調査結果報告」によれば,平成17年の時点で母子世帯の年間平均収入は213万円で全世帯平均の37.8%に過ぎず,母子世帯の実に4分の1は年間収入118万円以下という極端な貧困の中で暮らしている(なお,上記収入には生活保護が支給されていればその給付額も当然含まれている。)。この数字からして,少なくない数の母子世帯が,本来,生活保護を受給することが可能であるのに,受給できていないことは明らかである。こうした極めて不十分な生活保護の運用状況を改善することなく,逆にその結果生じている母子世帯の深刻な貧困を根拠として,さらに生活保護における母子世帯の保護を切り下げることは,極めて不合理というほかない。
従って,生活保護基準以下の生活を強いられている一般母子世帯が多数存在することは母子加算を廃止する合理的根拠とはなりえず,母子加算は廃止すべきではなかったといえる。
以上に鑑みて,当会は,貧困の連鎖を断ち切り,母子家庭の子どもたちが尊厳をもって成長することを保障するため,国において,母子加算を従前の保護基準に戻し,かつ,これを法律で定めるよう強く要請する。
2009年(平成21年)7月 27日
福井弁護士会 会長 黛 千恵子