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声明・意見書

会長声明 2013年11月27日 (水)

特定秘密保護法案の国際原則に照らした徹底審議と廃案を求める会長声明

1 当会は,これまで,2012年7月25日付け「秘密保全法制定に反対する会長声明」,2013年9月17日付け「『特定秘密の保護に関する法律案の概要』に対する意見書」及び2013年11月5日付け「国民の知る権利を侵害する特定秘密保護法案(以下「本法案」という。)の廃案を求める会長声明において,本法案の廃案を強く求めてきた。
 この間,本法案の危険性は次第に広く知られるようになり,国内の多くの法律家団体,学者・研究者団体,マスコミ関係団体,NGO・市民団体等から反対の声明が上げられ,また,去る11月21日には,東京・日比谷公園において,日本弁護士連合会も後援した「STOP!『秘密保護法』11.21大集会」が,1万人の市民の参加で開催された。また,米国ニューヨーク・タイムズ紙の10月29日付け社説が同法案を「反民主主義的」と批判したほか,日本外国特派員協会が11月11日付け声明において同法案の廃案か大幅修正を求め,国際ペンクラブも11月20日付け会長声明で同法案を批判し,11月21日には,国連人権理事会のフランク・ラ・ルー特別報告者も,ジャーナリストや内部告発者を脅かす危険性があるとして同法案への懸念を表明するなど,特定秘密法案に対する国際的な批判も強まっている。

 にもかかわらず,政府及び与党が,こうした批判に耳を傾けることなく,昨日,衆議院において本法案の採決を強行し,拙速な審議で同法案を成立させようとしていることに対して,当会は強く抗議する。政府及び与党がわが国における法案の重要性を強く認識するのであれば,尚更のこと,国民の理解と納得を得られるよう,国会において慎重に法案の内容を審議すべきである。

2 国民の知る権利は,日本国憲法第21条によって保障されるとともに,市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第19条第2項において「すべての者は,表現の自由についての権利を有する。この権利には,口頭,手書き若しくは印刷, 芸術の形態又は自ら選択する他の方法により,国境とのかかわりなく,あらゆる種類の情報及び考えを求め, 受け及び伝える自由を含む。」として保障されているものであるから,その制限に当たっては,自由権規約第19条の国際法上の解釈にも十分配慮がなされるべきであるところ, 「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(以下「ツワネ原則」という。)は,自由権規約第19条等をふまえ,国家安全保障分野において立法を行う者に対して,国家安全保障のための情報管理と知る権利の保障との調整のために,実務的ガイドラインとして作成されたものであり,国会での秘密保護法案の審議においても,同原則に照らして,同法案が自由権規約第19条に適合するといえるか否かが,徹底して審議されなければならない。
 なお,ツワネ原則の策定には,アムネスティインターナショナルやアーティクル19のような著名な国際人権団体だけでなく,国際法律家連盟のような法曹団体,安全保障に関する国際団体など22の団体や学術機関が名前を連ねている。この原則には,ヨーロッパ人権裁判所やアメリカ合衆国など,最も真剣な論争が行われている地域における努力が反映されている。起草後,欧州評議会の議員会議において,国家安全保障と情報アクセスに関するレポートにも引用されるなど,国際的にも重要なガイドラインといえる。
 しかるに,本法案には,ツワネ原則に反する多数の問題点があり,自由権規約第19条の知る権利を侵害するものというほかないから,同法案は廃案にするほかない。
 以下,ツワネ原則に則して本法案の問題点を指摘する。
(1)ツワネ原則1,3,4は国家秘密の存在を前提にしているものの,誰もが公的機関の情報にアクセスする権利を有しており,その権利を制限する正当性を証明するのは政府の責務であり,非開示になりうる情報の「厳密な分類」は、法により明確に定められるべきであるとしている。
 しかし,法案にこの原則が明示されていないばかりか,秘密指定の要件は曖昧かつ広範であり,秘密指定についてきわめて広範な裁量を行政機関の長に与えている。
(2)ツワネ原則10は,政府の人権法・人道法違反の事実や大量破壊兵器の保有,環境破壊など,政府が秘密にしてはならない情報が列挙されている。国民の知る権利を保障する観点からこのような規定は必要不可欠である。
 しかし,法案には,このような規定がない。
(3)ツワネ原則16は,情報は,必要な期間にのみ限定して秘密指定されるべきであり,政府が秘密指定を許される最長期間を法律で定めるべきであるとしている。
 しかし,法案には,最長期間についての定めはなく,30年経過時のチェックにしても行政機関である内閣が判断する手続になっており,第三者によるチェックになっていない。
(4)ツワネ原則17は,市民が秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきであるとしている。これは恣意的な秘密指定を無効にする上で有意義である。
 しかし,法案はこのような手続規定がない。
(5)ツワネ原則6,31,32,33は,安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきであり,この機関は,実効的な監視を行うために必要な全ての情報に対してアクセスできるようにすべきであるとしている。
 しかし,法案には,このような監視機関に関する規定がない。
(6)ツワネ原則43,46は,内部告発者は,明らかにされた情報による公益が,秘密保持による公益を上回る場合には,報復を受けるべきでなく,情報漏えい者に対する訴追は,情報を明らかにしたことの公益と比べ,現実的で確認可能な重大な損害を引き起こす場合に限って許されるとしている。
 しかし,法案では,この点に関する利益衡量規定がなく,公益通報者が漏えい罪によって処罰される危険が極めて高い。
(7)ツワネ原則47,48は,公務員でない者は,秘密情報の受取,保持若しくは公衆への公開により,又は秘密情報の探索,アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではないとし,また,情報流出の調査において,秘密の情報源やその他の非公開情報を明らかすることを強制されるべきではないとしている。
 しかし,法案にはこのような規定がないどころか,第23条ないし第26条の規定によって広く処罰できるようにしている。
3 当会は,政府が,国民の生命及び財産を守るため,安全保障上の理由によって一定の事項を一定の期間,秘密とする必要があると判断し対応することを,全面的に否定するものではない。しかし他方で,過剰な秘密管理によって,国民の基本的人権である言論の自由や知る権利,プライバシー権が侵害され,民主主義の過程がゆがめられるとすれば,それは本末転倒というほかない。とりわけ,原子力発電所の安全性に関わる重要な情報までが,秘密保護法に基づいて広範に秘密指定されることは,多数の原子力発電所がある福井県の住民の安全にとっては重大な脅威であり,当会としてもこの点に強い危惧を感じざるを得ない。
 ツワネ原則は,安全保障上の秘密保護の要請と国民の基本的人権の保護の要請を調整する上で重要なガイドラインであり,上記のとおり,このガイドラインに照らして重大な問題を多数含む本法案は,わが国の民主主義社会に重大な危機をもたらすおそれが強いといわざるを得ず,廃案にするほかない。ましてや,これらの重大な問題点を無視し,拙速な審議により法案を成立させることは,断じて許されない。
 よって,当会は,本法案の「ツワネ原則」に照らした徹底審議を求めるとともに,改めて,本法案の廃案を強く求めるものである。 


2013年(平成25年)11月27日
福井弁護士会
会長 島 田   広

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