会長声明 2009年08月27日 (木)
消費者庁長官及び消費者委員会委員の選任手続に関し 両組織創設の趣旨の徹底を求める会長声明
1 さる5月29日,消費者庁及び消費者委員会設置法(以下「設置法」)が制定された。設置法の設定は,「消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現」(設置法3条)それ自体を目的にする組織を設置することで,消費者安全法と相まって,従前の産業育成官庁による健全な産業の発展という観点を基礎とする消費者保護行政から,消費者の権利や自立の支援を基礎とする行政への転換を図ったものであり,その歴史的意義は極めて大きい。
2 そして,いかなる組織も,それを構成するのは具体的な人材であり,消費者庁及び消費者委員会が上記の目的を達成するには,既存の行政にとらわれない新しい視点から職権を行使しうる人物で構成されることが不可欠である。とりわけ,消費者庁長官は,「消費者庁の所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは,関係行政機関の長に対し,資料の提出,説明その他必要な協力を求めることができ」(設置法5条),消費者委員会の委員長も消費者の利益擁護に関する事項を「自ら調査審議し,必要と認められる事項を内閣総理大臣,関係各大臣又は長官に建議する」(設置法6条2項)組織の長であることから,その人選は極めて重要である。
従って,その選任においては,既存の官庁ではなく,消費者の意思が反映されることが不可欠であり,選任過程が広く国民に公開されて消費者の監視を受けると共に,実質的に消費者の意思によって選任されなければならない。これまでの産業育成官庁の職員の敷いたレールに従って,秘密裡に,これらの人選がなされてはならないのである。とりわけ,消費者委員会の委員長が「委員の互選により選任する」(設置法12条1項)と規定されているのは,消費者の意思を委員長選任に反映させる点にその趣旨がある。
3 ところが,報道によると,消費者庁の初代長官に前内閣府事務次官を起用すること,及び消費者委員会の初代委員長に特定の人物を起用することが政府から明らかにされたという。
いずれの人事も,そのような決定がどのような場で,どのような理由でなされたかは全く不明であるとともに,従前の行政に深く関与した人物が消費者庁の長官に就任することは,果たして消費者行政を根本から転換することを図った設置法の趣旨に合致するのか,疑問なしとしない。ましてや,消費者委員会委員長について,事前に政府が人事を決定することは,明らかに設置法12条1項の趣旨を没却するものであり,このような非民主的手続が新しく発足する消費者庁及び消費者委員会に似つかわしくないことは余りにも明らかである。
4 よって,当会は,消費者庁長官及び消費者委員会の人事に関して,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁及び消費者委員会の設立準備は,可能な限り国民に公開する方法で実施する。
(2) 消費者庁長官及び消費者委員会委員は,従前における行政の発想に捉われることなく,消費者の立場から任務を遂行して,与えられた権限を機動的かつ実効的に行使しうる人物を選任する。
(3) 消費者委員長の選任については,消費者庁及び消費者委員会設置法に規定されているとおり(同法12条),委員の自由な意思に基づく互選によらなければならず,これに政府が介入しないこと。
2009年(平成21年)8月 27日
福井弁護士会 会長 黛 千恵子