会長声明 2016年11月25日 (金)
死刑執行に強く抗議し,改めて死刑執行を停止し,死刑制度の廃止に向けた検討をすべきであることを求める会長声明―犯罪被害者遺族支援とともに刑罰制度の見直しを
2016年(平成28年)11月11日,福岡拘置所において1名に対して死刑が執行された。金田勝年法務大臣による初めての執行であり,第2次安倍内閣以降,死刑が執行されたのは10回目で,合わせて17名になる。また,裁判員裁判制度の下で死刑が確定し,執行された2例目でもある。
死刑制度は,死刑が人間の生命を奪うという非人道的行為であること,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止していること,誤判・冤罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないこと,などの様々な問題を内包していることは,2016(平成28)年4月22日付け会長声明においても指摘したとおりである。
このような問題意識を踏まえて,日本弁護士連合会は,本年10月7日に,我が福井県で開催された第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,その中で,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることを宣言した。
当会でも,2013(平成25)年7月には市民参加の下,「死刑を考える日2013」を開催するなど,死刑のない社会を目指した議論を重ねてきたところである。
また,2015年(平成27年)度に設置された中部弁護士連合会内の死刑問題検討ワーキンググループにおいても,本年度は死刑廃止を考えるシンポジウムを富山,愛知,石川の各地で3回開催するなど,福井のみならず中部地方の各弁護士会を挙げて,より幅広く死刑廃止に向けた全社会的議論への取り組みを進めてきている。
このような状況下で,死刑制度とその運用に関する情報の公開がなされず,公の議論が何ら行われないまま,死刑執行だけがさらに繰り返されていることは,到底容認できない。
また、今回の人権大会宣言においては,犯罪により身内の方を亡くされた遺族の方が厳罰を望むことはごく自然なことであり,その心情は十分に理解できると指摘しつつも,他方で,生まれながらの犯罪者はおらず,犯罪者となってしまった人の多くは,家庭,経済,教育,地域等における様々な環境や差別が一因となって犯罪に至っており,人権を尊重する民主主義社会であろうとする我々の社会においては,犯罪被害者・遺族に対する十分な支援を行うとともに,死刑制度を含む刑罰制度全体を見直す必要があり,死刑を廃止するにあたって,死刑の代替刑として終身刑の検討を含む拘禁刑改革を求めている。政府は,日弁連の宣言を尊重し,直ちに,犯罪被害者・遺族支援の拡充を図るとともに,死刑廃止に向けた立法化作業に取り組むべきである。
当会は,死刑廃止に向けた立法化作業が行われないまま行われた今回の死刑執行に強く抗議するとともに,犯罪被害者・遺族支援及び死刑執行を停止することと死刑に関する情報を広く国民に公開することを要請し,日弁連が上記宣言をしたことを踏まえて,死刑制度についてのさらなる全社会的議論を呼びかけるとともに,死刑制度の廃止に向けた検討を重ねて求めるものである。
2016年(平成28年)11 月25日
福井弁護士会
会長 海 道 宏 実