会長声明 2020年06月10日 (水)
改めて違法な検察官勤務延長閣議決定等の撤回を求めるとともに,国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち検察官の勤務延長等の特例措置に関する部分に反対する会長声明
1 政府は,2020年(令和2年)1月31日,同年2月7日に定年退官する予定だった東京高等検察庁検事長について,国家公務員法(以下「国公法」という。)第81条の3第1項を適用し,半年後の同年8月7日まで勤務を延長することを閣議決定した(以下「本件閣議決定」という。)。本件閣議決定は,検察庁法に違反することから多くの批判を受け,当会も2020年(令和2年)3月25日付け会長声明において強く抗議しその撤回を求めた。 しかしながら,政府は,本件閣議決定を撤回せず,同決定の違法性を糊塗するかのように,同年3月13日,国家公務員法等の一部を改正する法律案(以下「本件法案」という。)を国会に提出した。同法案には検察庁法の一部改正が含まれており,その改正内容は,①検察官の定年の65歳への引き上げ,②63歳に達した検察官へのいわゆる役職定年制の導入,③内閣又は法務大臣の判断による定年後の勤務延長措置の導入,④内閣又は法務大臣の判断による役職定年制の例外として留任を認めるいわゆる役降り特例措置の導入(以下③及び④を合わせて「本件特例措置」という。)であった。
2 同法案のうち本件特例措置に対しては,日本弁護士連合会,多数の弁護士会や弁護士会連合会,弁護士,著名人を含む多数の市民から反対の意見表明がなされ,さらには元検事総長を含む多数の元検察官らによる反対の意見書が法務省に提出されるという異例の事態にまで至った。 こうした反対の声が強まる中で,安倍内閣総理大臣は,同年5月18日,本法案の今国会での採決を見送る意向を明らかにし,報道によれば,政府・与党内で廃案や継続審議など法案の扱いを検討しているとされている。
3 検察官は,公訴権を独占する機関として,国会議員や国務大臣が犯した権力犯罪に対しても厳正な処罰を求めることができるように,政府からの高度の独立性が要請される。 本件閣議決定がこのまま維持され,さらには本件特例措置が導入されれば,政府の意向で検察官の人事に介入することを可能にして検察官の独立性を損ない,
ひいては検察組織全体の中立性や公正性に疑義を生ぜしめる恐れが強いと言わざるを得ない。
さらに,国家公務員制度担当大臣は,衆議院内閣委員会において,定年延長を政府判断で認める際の具体的な運用基準は存在しないと明言した。また,法務大臣は,衆議院内閣委員会における審議の中で,本件特例措置の適用基準について法案成立後に人事院規則の規定に準じて定めると答弁しており,政府には検察官の独立性の確保に対する配慮が著しく欠けており,本件特例措置の導入により恣意的な人事権の行使が可能となる恐れがあることがますます明白となった。
4 そもそも,検察については検察官同一体の原則からして検察官の定年により捜査,公判に著しい支障を来すことは考えられない。上記国会審議の中でも,国務大臣らが過去に検察官の勤務延長を必要とするような事例はなかったと答弁するなど,本件特例措置は必要ないことがより明白になった。
5 したがって,本件法案のうち本件特例措置に関する部分は削除すべきであって,削除がなされないのであれば,このような重大な問題を含む本件法案は,継続審議ではなく廃案とすべきである。
よって,当会は,改めて検察官について違法に勤務を延長した本件閣議決定の撤回を再度求めるとともに,本件法案のうち本件特例措置に関する部分に強く反対する。
2020年(令和2年)6月10日
福井弁護士会
会長 八木 宏