会長声明 2015年05月25日 (月)
安全保障法制改定法案に反対する会長声明
1 2015年5月14日,政府は,自衛隊法,武力攻撃事態法,周辺事態法,国連平和維持活動協力法等を改正する平和安全法制整備法案及び新規立法である国際平和支援法案(以下併せて「本法案」という。)を閣議決定した。
本法案は,昨年7月1日の閣議決定を受け,また本年4月27日の新たな日米防衛協力のための指針の合意に合わせて,集団的自衛権行使を可能とするとともに,自衛隊が,地理的限定なく,武力の行使,戦争を遂行する他国の支援,及び停戦処理活動等を広汎に行うことを可能とするものである。
2 当会は,2014年4月30日付け「集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明」及び同年7月4日付け「集団的自衛権行使容認の閣議決定に強く抗議する会長声明」において,憲法第9条に関する従来の政府解釈を変更し集団的自衛権の行使を容認した同月1日付閣議決定は解釈の域をこえるものであると指摘し,これに基づく法整備を行わないよう求めた。
本法案は,こうした憲法違反の解釈変更を前提にしつつ,より幅広い海外での武力行使まで認めるものであり,様々な憲法違反を重ねる内容となっている。
(1)第1に,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされる等の要件を満たす事態を「存立危機事態」と称し,この場合に,世界のどこででも自衛隊が米国及び他国軍隊とともに武力を行使することを可能としている。しかし,これは,憲法第9条に違反して,国際法上の集団的自衛権の行使を容認するものである。
(2)第2に,我が国の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」や,国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」において,現に戦闘行為が行われている現場でなければ,地理的限定なくどこででも,自衛隊が戦争を行っている米国又は他国の軍隊に,弾薬の提供等まで含む支援活動を行うことを可能としている。これでは,従来の政府の憲法解釈からは憲法で禁止されるとされてきた他国との武力行使の一体化は避けられず,憲法第9条が禁止する海外での武力行使に道を開くものである。
(3)第3に,これまでの国連平和維持活動(PKO)のほかに,国連が統括しない有志連合等の「国際連携平和安全活動」にまで業務範囲を拡大し,従来PKOにおいて憲法上なしえないとされてきた安全確保業務や「駆け付け警護」を行うこと,及びそれに伴う任務遂行のための武器使用を認めている。しかし,この武器使用は,従来PKOにおいて認められてきた自己保存のための限度を超えて,相手の妨害を戦闘行為によって排除するためのものであり,武力の行使につながる危険のあるものである。その危険性は,新たに自衛隊の任務として認められた在外邦人救出等の活動についても同様である。
(4)第4に,本法案は,武力攻撃に至らない侵害への対処として,新たに他国軍隊の武器等の防護を自衛官の権限として認めている。これは,現場の判断により戦闘行為に発展しかねない危険性を飛躍的に高めるものである。
3 以上のとおり,本法案は,徹底した恒久平和主義を定め,平和的生存権を保障した憲法前文及び第9条に違反し,仮に成立しても無効といわざるを得ない。憲法の定める平和国家としての日本の国の在り方を根底から覆す本法案を,憲法改正手続を経ることなく成立させることは,立憲主義の基本理念に真っ向から反する。
4 よって,当会は,本法案による安全保障法制の改定に強く反対するとともに,基本的人権の擁護を使命とする法律家の団体として,本法案が成立することのないよう,その違憲性を強く訴えるものである。
2015年(平成27年)5月25日
福井弁護士会
会長 寺 田 直 樹