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声明・意見書

会長声明 2019年07月17日 (水)

大崎事件第三次再審請求棄却決定に対する会長声明

最高裁判所第一小法廷は、本年6月25日、いわゆる大崎事件第三次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏等)の特別抗告審につき、検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず、職権により、鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却(再審開始維持)決定を取り消し、再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。本決定は、以下に述べるとおり極めて不当である。

 本件は、1979年(昭和54年)10月、原口アヤ子氏が、元夫、義弟との計3名で共謀して被害者を殺害し、その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。原口アヤ子氏が逮捕時から一貫して無罪を主張しているにもかかわらず、確定審では、「共犯者」とされた元夫、義弟、義弟の息子の3名の「自白」、その「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しない法医学鑑定、共犯者の親族の供述等を主な証拠として、原口アヤ子氏に対し、懲役10年の有罪判決が下された。

 原口アヤ子氏は、第一次再審請求において、2002年(平成14年)3月26日、再審開始決定を得たが、検察官抗告により同決定が取り消され、その後再審請求棄却決定が確定した。そして、第二次再審請求においても、再審請求は認められなかった。

 第三次再審請求審では、2017年(平成29年)6月28日、新証拠である法医学鑑定人、供述心理学鑑定人の証人尋問を行い、証拠開示についても積極的な訴訟指揮を行った上で「殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」と結論付けて、本件について二度目となる再審開始決定をした。同一事件において二度の再審開始決定がなされたのは免田事件以来のことである。これに対しても検察官が即時抗告を申し立てたが、福岡高等裁判所宮崎支部においても、再審開始の結論を維持し、検察官の即時抗告を棄却して、再審開始を認めた。すなわち、地裁及び高裁において、少なくともそれぞれの合議体の過半数の裁判官が確定判決に疑問を呈したのであり、このこと自体が、確定判決に合理的な疑いが生じていることの証左である。

 ところが、最高裁判所第一小法廷は、検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず、請求を棄却するという前例のない本決定を行った。

 本決定は、原々審及び原審が丁寧な事実認定を行って再審開始を認めたにもかかわらず、書面審理のみで結論を覆したものであり、無辜の救済の理念や「疑わしい時は被告人の利益に」と明言した白鳥・財田川決定を骨抜きにするものと言わざるを得ない。少なくとも、最高裁判所第一小法廷は、検察官の特別抗告に理由がないとしたのであるから、仮に、事実認定に疑問を呈するのであれば、再審開始決定を確定させた上で、事実認定の審理については再審公判の裁判所に委ねるべきであった。

 今回の決定は、最高裁がこの鉄則を自ら踏みにじり、人権救済の最後の砦としての役割を果たすことを放棄したものと言わざるをえない。

 当会は、福井女子中学生殺人事件の再審請求を支援しているが、同事件も、一審で無罪となりながら控訴審において逆転有罪とされ、最高裁で有罪判決が確定し、さらに第一次再審請求において再審開始決定がなされたにもかかわらず、異議審において再審開始決定が取り消され、特別抗告も棄却された。この事件も、裁判所が人権救済の最後の砦としての役割を放棄した結果であり、その不当性は明らかである。

 そもそも、無辜の救済を目的とする再審手続において、再審請求権者である検察官は、有罪を追求する訴追者ではなく、無辜の救済のための審理に協力する公益の代表者として振る舞うべきであり、検察官が上訴して再審開始を阻もうとすること自体が制度趣旨に反する。さらに、裁判所が、検察官の主張に理由がなくとも検察官の求めた結論は認めるという方向で職権を行使することが許されるならば、再審制度の趣旨は著しく没却される。本決定は、最高裁判所が人権救済の最後の砦という最も重要な役割を自ら放棄したものとして、まさに著しく正義に反するものである。

 よって、当会は、適正な刑事手続の保障とえん罪の根絶を希求する法律専門家の団体として、本決定に抗議し、最高裁判所が人権救済の最後の砦としてあるべき役割を取り戻すことを求める。

 

2019(令和元)年7月16日

福井弁護士会会長 吉川 健司

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