意見書 2006年11月14日 (火)
割賦販売法の抜本的改正を求める意見書
第1 意見の趣旨
近時、大きな社会問題となっている高齢者を対象とした住宅リフォームや呉服の次々販売などに係る悪質商法の被害は、建設業法、特定商取引法などを含めた関係法令の改正や取り締まり強化によって、早急に根絶すべきである。
そうした対策の一環として、クレジットの過剰与信等による被害の防止が重要であり、そのために割賦販売法を以下のように速やかに法改正すべきである。
1 割賦払いの要件を撤廃し、1回払いや2回払いのクレジット契約も適用対
象とする。
2 政令指定商品制を廃止し、すべての商品・権利・役務についてあらゆる取
引形態を適用対象とする。
3 抗弁対抗の規定について、
(1)抗弁対抗の効果を、既払い金の返還請求権にまで拡大する。
(2)抗弁対抗が制限される場合として、購入者が販売業者の不正行為に害意
をもって加担するなどの背信的事情があり、かつ、クレジット会社が加盟店管理を尽くしていた場合に限られる旨を規定する。
(3)政令で定める支払総額に満たない取引、商行為に係る取引、販売業者が
その従業員に対して行う取引についての適用除外規定を削除する。
4 クレジット会社の加盟店管理義務を法律上に明記し、これを怠った場合に
つき、請求権の制限や損害賠償義務といった民事的効果を定める。
5 過剰与信防止のため、割賦販売業者及びクレジット会社に対して、
(1)購入者又は保証人の支払い能力を超えるクレジット契約を禁止する。支
払い能力の判断基準については、政令で具体的に定めるものとし、「総枠規制として既存の債務も含めた年間支払額が手取り年収の30%」を原則的な基準とする。
(2)この禁止に違反した場合につき、民事的な請求権制限の効果を定める。
(3)個人信用情報機関の利用義務を法律上に明記し、与信調査記録の作成・
保存・調査義務を定める。
第2 意見の理由
1 はじめに
近時、クレジット会社が悪質な販売業者の行う違法・不当な商法にクレジットを利用させるという形で、これを助長していることが深刻な社会問題を引き起こしており、こうした被害の防止と救済手段の拡充が急務となっている。
そこで、今般、当会は、急増するクレジットによる被害発生の対策として緊急に必要と考えられる事項を、割賦販売法の改正によって速やかに立法化するよう求めるものである。
2 クレジット被害の急増
(1)2000年(平成12年)度に国民生活センター及び全国の消費生活セ
ンターに寄せられた消費生活相談のうち、実に34%(144,684件)が、契約代金の支払いにクレジットを利用している。このクレジットを利用した契約に関する相談のうち、大半は商品の販売業者や役務の提供業者(以下、単に「販売業者」という)の売り方・セールストークなど問題商法に対する苦情である(国民生活センターの2002年4月24日付「個品割賦購入あっせん契約におけるクレジット会社の加盟店問題」と題する報告書)。そして、2003年(平成15年)度におけるクレジットを利用した契約に関する消費生活相談は172,429件と一層増加している(同センターの2005年3月4日付「クレジット会社の与信問題」と題する報告書)。
(2)近時は、悪質な訪問販売者が、高齢者や知的障害者を狙って住宅リフォ
ーム工事や布団、呉服の購入などを次々と契約させる事例が続発しており、中には不必要な工事や商品まで契約させたり、不当に高額な対価を支払わせたり、さらには受注した工事を行っていないという事例も少なくない。特に、訪販リフォームの相談件数は急増しており、1995年(平成7年)度は、3,083件であったものが、2004年(平成16年)度には、8,728件と3倍近くにまで急増している。しかも、1995年(平成7年)度と2004年(平成16年)度の訪販リフォーム相談件数で比較すると、そのうち判断能力が不十分と思われる者の契約についての相談は8倍以上に増えている。また、いわゆる次々販売の相談は44倍以上に増加している。そして、訪販リフォーム相談全体における平均年齢は60.2才であるのに対し、次々販売は69.0才と、明らかに高齢者が狙われていることがわかる。しかも、次々販売における購入者の職業別構成を見ると無職者が60.5%、家事従事者が21.4%と、定期的な収入が見込まれない者が8割以上を占めている。そして、代金の支払方法を見ると、訪販リフォーム相談全体のうち、5割弱でクレジットが使われており、内訳は個品割賦が37.0%、翌月・ボーナス一括払いが7.3%その他(自社割賦、総合割賦等)が4.1%であった(国民生活センターの2005年7月20日付「訪販リフォームに係る消費者トラブルについて」と題する報告書)。
(3)このように、悪質販売業者は、高齢者など判断能力が不十分な者を狙い、
代金を即時に支払えない場合、公有者にクレジットを利用させ、クレジット会社からの立替金によって代金を取得している。かかるクレジットの申し込みを受けたクレジット会社は、販売行為の違法・不当性を看過し、かつ、購入者の支払い能力を考慮することなく、次々とクレジット契約を行っている。その結果、支払い能力をはるかに超える支払額で多重のクレジット債務を負うといった深刻な被害事例が多発しているのである。
(4)例えば、福井県においても、屋根の葺き替え工事、雨樋取り替え工事な
ど次々に10件の契約を結ばされた事案があった。契約者は、60才代の女性であり、年金生活者であって、年金の受給額も1か月あたり10万円でしかないのに、契約の総額は1300万円、1か月のクレジット支払額は8万円という事案であった。
また、布団や着物、健康食品など、断り切れずに20件、総額1500
万円の契約を結ばされた事案もあった。契約者は、契約時60才代で、年金の受給額は1か月あたり13万5000円でしかなく、夫の年金を合わせても1か月の収入は25万円に満たないのに、1か月のクレジットの支払額が27万円にまで膨らんでしまった。20件の契約に6社の信販会社が関与していたが、その内、3社が4~5件の複数契約について与信していた。
(5)高齢者、知的障害者のみならず、悪質販売業者は、判断力が不足してい
る若者をも狙っている。悪質販売業者は、若者などに対し販売目的を隠して呼び出すアポイントメントセールス、街頭で声をかけるキャッチセールスのほか、販売員と交際しているような気持ちにさせ断りにくい心境にさせて契約をさせるデート商法などを駆使して、貴金属や絵画などの不必要で高額な商品を次々購入させ、多重のクレジット債務を負担させ、このことによって、経済的な破綻に陥る若者も少なくない。
(6)さらには、若者らに対し、ダイヤモンドを5年後に買い戻すことを謳い
文句にして強引に販売したココ山岡事件、購入後にモニター会員になると簡単なレポートを提出するだけでクレジット支払額を上回るモニター料を支給すると約束して布団を購入させたダンシング事件、仕事を提供する名目で集めた主婦らに対し、モニター料としてクレジット支払額を支給すると約束して呉服類を次々と購入させた愛染苑山久事件、中小事業者に対し広告掲出契約にもとづく月払いの広告料についてクレジットの一括立替払い契約をさせたジェイメディア事件など、クレジットを利用して多数の被害者を生み出した大型被害事件も次々と社会問題になっており、今後ますます拡大することが危惧される。
3 被害発生の実態
(1)このようにクレジット被害が増加している背景には、クレジット業界において激しい与信競争下にあるクレジット会社が、できる限り多くの加盟店と提携し、少しでも多くの契約を獲得して会社の収益につなげようとする結果、加盟店の審査・管理及び個々の契約に対する審査・調査がほとんどなされていないという実態がある。
(2)そうした実態は、国民生活センターの2002年4月24日付前掲報告書においても、「クレジット会社は、販売業者と契約(加盟店契約)して消費者にクレジットを提供するが、相手が問題商法の業者であっても契約していて、それが既述の消費者被害を発生させているのではないかと推測される。クレジット会社が問題商法の業者を裏で支えているのではないか、という疑念」があると指摘されている。
また、同センターの2005年3月4日付前掲報告書では、「消費生活
相談の実態を見ると、支払い能力を超えた過剰な与信、年金暮らしの高齢者や判断不十分者等への不適正な与信等が行われた例が多数見受けられる」とされている。
(3)クレジット会社による加盟店管理の強化については、所管官庁である経済産業省もその必要性を認め、過去何回もクレジット業界団体を通じて指導したとされる。すなわち、1983年(昭和58年)3月11日付「個品割賦購入あっせん契約に関する消費者トラブルの防止について」と題する旧通商産業省の通達に始まり、近時では、2002年(平成14年)5月15日付「割賦購入あっせん業者における加盟店管理の強化について」と題する要請がなされた。さらに、2004年(平成16年)12月22日付「割賦購入あっせん業者における加盟店管理の強化・徹底について」と題する要請が再び、「・・・消費者トラブルに係る加盟店と購入者等との取引において、クレジットが利用されている事例も引き続き多数見受けられます」との認識のもとに行われた。そして、2005年(平成17年)7月11日付「住宅リフォーム関連加盟店の総点検等について」と題する要請でも、「最近、高齢者を狙った悪質な住宅リフォーム訪問販売等による消費者被害が多発している。このため、悪質な販売事業者等に商品販売等の取引に際し、クレジットを利用させることによる消費者トラブルを防止」する観点から、加盟店管理の厳格な実施が改めて求められた。
(4)以上のようなクレジットトラブル発生の背景と、経済産業省による幾度もの要請が功を奏していない現実は、現行法による規制が、クレジットを利用した違法・不当な商法に対する有効な対策となっていないことを端的に示している。
そこで、高齢者・知的障害者の被害事例の増大に象徴されるクレジットを利用した悪質商法を防止し、被害を救済するための方策を講じるために、差し当たり割賦販売法において、以下のような法改正を直ちに行う必要がある。
4 割賦払い要件の撤廃
(1)原稿割賦販売法が規制対象としているクレジット取引は、「2月以上の期間にわたり、かつ、3回以上に分割して」支払う割賦払い、又は、「あらかじめ定められた方法により算定した金額」を支払うリボルビング払いのいずれかに限られている。
(2)こうした要件があることによって、同じように購入者に支払いの猶予を与える取引でも1回払い(翌月一括払いやボーナス一括払いなど)や2回払いは同法の規制対象から漏れており、その部分についてのクレジットトラブルが放置されているのが現状である。
実際、高齢者を狙った住宅リフォーム被害でも、抗弁の対抗規定の適用
を回避するために翌月一括払いの契約をさせたと見られる事案がある。
(3)そもそも、クレジット取引が有する代金支払が購入後になるという性格や、販売契約と与信契約の密接不可分性といった特徴に鑑みた規制を行うにあたり、支払い回数によって適用の有無を区別することは合理性を欠く。また、このような「法の隙間」を狙った悪質商法の出現を引き続き許すことにもなる。
(4)したがって、現行法の要件は撤廃し、一括払い・分割払い・リボルビング払い等の方法に関係なく、支払方法が後払い又は延べ払いであれば適用対象とすべきである。
(5)なお、法適用の基準となる支払猶予の期間は、販売業者による自社割賦販売については、現行法の「3回以上に分割して」との要件を撤廃して、「2か月以上」にわたり代金支払いを猶予する場合とすべきである。また、3者間取引を前提とするローン提携販売及び割賦購入あっせんについては、いわゆるデビッドカードが即日又は翌営業日の決済を原則としており、現金取引と同視できることなどを考慮して、支払いを「3日以上」にわたり猶予する場合とするのが相当である。
5 政令指定商品制の廃止
(1)さらに、現行割賦販売法は、政令指定商品制を採用しているため、同法の規制対象となるのは、政令で定めた指定商品・指定権利・指定役務の取引に限られる。
(2)そのため、取引対象が指定商品等に含まれない事例に関するクレジットトラブルが後を絶たず、その都度、被害の後追い的に追加指定が繰り返されてきた。しかし、これでは今後も指定された以外の品目についてのトラブルが続くことは必至である。
(3)クレジット取引の規制は、代金支払いが購入後になるという性格や、販売契約と与信契約との密接不可分性といった特徴に鑑みて行うべきものであって、取引対象品目によって適用の有無に差を設けることには全く合理性がない。
諸外国の消費者信用法を見ても、取引対象品目によって適用範囲を限定する指定商品制を採用する例は見られない。
(4)したがって、現行法の指定商品制は廃止すべきであり、仮に法規制が不適切な取引品目があるとすれば、逆に適用除外品目として規定すべきである。
(5)また、現行法は、指定商品制を前提にして、物品・権利の販売契約と役務の提供契約のみを適用対象取引としているが、現実には物品の賃貸・リースや、役務提供においても委任・請負等の多様な契約形態が存在する。指定商品制を廃止するに伴い、こういったすべての有償契約におけるクレジット取引にまで適用対象を拡大すべきである。
6 抗弁対抗の拡大
(1)現行割賦販売法30条の4は、「抗弁の対抗」の効果として、購入者のクレジット会社に対する未払い金の支払い拒否についてのみ規定し、既払い金の返還については規定していない。
(2)しかし、支払途中のどの段階で販売契約に関する問題が発覚し、抗弁主張を行ったかによって、救済される範囲が異なるのは合理性を欠いている。現に、ドイツ、イギリス、フランス等の主要国の消費者信用法は、クレジット会社が既払い金の返還義務を負うこと(与信契約の効力否定)を定めている。
(3)そして、何よりも、現行法における「抗弁の対抗」の効果が、購入者が問題に気づいて抗弁主張をした以後の未払金の支払い拒否に止まっている結果、クレジット会社にとっては、仮に加盟店の販売方法に問題があることを察知しても、直ちに加盟店契約をうち切る等の対処をするより、加盟店に経営を継続させる方が、経済的に有利となっている。そのため、悪質加盟店が引き続きクレジットを利用しながら営業を継続して、さらに被害が拡大することを防ぎ得ないという実態がある。
(4)したがって、被害救済はもちろんのこと、クレジット会社による加盟店管理を徹底する上においても、「抗弁の対抗」規定にクレジット会社の既払い金返還義務を定めることが不可欠である。
(5)さらに、「抗弁の対抗」に関しては、名義借りなど、販売業者が不正にクレジットを利用して資金を得るといった事例において、こうした不正行為に購入者となる形で巻き込まれた者が抗弁を主張できるかという問題がある。
こうした場合、購入者が何らかの形で販売業者によるクレジットの不正利用に関与したからといって、直ちに責任を負担すべきものと解すべきではない。なぜなら、このような事案の実態は、販売業者が資金を得る必要か情を知らない購入者を利用している場合がほとんどであって、購入者の関与の程度に多少の差はあれ、不正行為の根本的な原因は、販売業者にあるからである。むしろ、提携している加盟店の営業活動によって、クレジット契約を獲得し、利益を上げているとともに、クレジット申し込み手続の主要部分を加盟店に委託しているクレジット会社こそが、かかる行為によって生じる危険を基本的には負担すべきである。クレジット会社であれば、加盟店管理を尽くすことによって不正行為を防止することができるはずであるし、防止すべきである。この点、先に述べたダンシング事件に関する大阪高等裁判所平成16年4月16日判決も「・・・信販会社である第1審被告らが加盟店の調査、管理の義務を尽くしたかどうかは、法30条の4の規定に基づく第1審原告らの抗弁対抗の主張が信義に反するものであるかどうかを判断するについて、一つの重要な考慮要素である」と判示している。
従って、購入者が、「抗弁の対抗」を制限されるのは、販売業者の不正行為に害意をもって加担するなどの背信的事情があり、かつ、クレジット会社が加盟店管理義務を尽くしていた場合に限定すべきであり、その旨を法文上に明記すべきである。
(6)以上のほか、現行法の30条の4第4項は、政令で定まる金額に満たない取引(1号)と購入者にとって商行為となる取引(2号)を「抗弁の対抗」の適用対象から除外している。また、30条の6は8条5号を準用して、販売業者がその従業者に対して行う取引についても「抗弁の対抗」の適用対象から除外している。これらの除外規定にも合理的な根拠はなく削除すべきである。
特に、商行為に関しては、クレジットトラブルに巻き込まれることが多い中小事業者は、クレジット取引に関する知識・経験において消費者と大差がない。この点について、近時の裁判例においても、ジェイメディア事件に関する仙台地方裁判所平成17年4月28日判決は、同社の倒産によって広告が掲出されなくなったことに基づく広告主らのクレジット会社に対する抗弁対抗を、信義則を理由に認めている。
7 加盟店管理義務の明文化
(1)現行割賦販売法には、クレジット会社の加盟店管理義務に関する明文規定がなく、前述のとおり、旧通商産業省及び経済産業省による通達や要請によって、クレジット業界団体を通じた指導がなされてきたに止まる。
(2)その結果、クレジットを利用した悪質商法や空売り・名義借り等のクレジットの不正使用が繰り返されても、クレジット会社による審査・管理は一向に強化されず、被害は拡大しているのである。
しかも、クレジット業界団体を通じた通達や要請による指導では、業界
団体に所属せずにクレジット業務を行っている貸金業者などに対しては全く無力である。
(3)先に述べたように、クレジット取引においては、販売契約と与信契約が密接・不可分にさようしており、クレジット会社は、提携している加盟店の営業活動によってクレジット契約を獲得する構造となっている。こうした構造から利益を得る立場のクレジット会社は、クレジットトラブルを防止するために加盟店の販売活動や契約履行の確実性などを審査・管理すべきであり、同時に、購入者に対して生じる責任も加盟店と共同して負担すべきである。
この点、ダンシング事件に関する前掲大阪高等裁判所判決も、「信販会社が継続的に提供するクレジットシステムにより悪質販売業者の不正な販売行為が助長されている関係がある」「こうした信販のシステムが孕む構造的な危険(病理現象)については、システムの開設者である信販会社が信販のシステムがあくようされないよう加盟店の調査・監督義務を徹底することにより対処することが期待されている」と判示している。さらには、同事件に関する大津地方裁判所平成16年12月20日判決や岡山地方裁判所平成16年12月21日判決、ジェイメディア事件に関する前掲仙台地方裁判所判決などにおいても、加盟店審査・管理義務が肯定されている。
(4)クレジット会社の加盟店管理義務を法律上に明記することは緊急の課題であり、その実効性を確保するためには、これを怠った場合の法的効果を定めることが必要である。
加盟店管理義務を怠った場合に、改善指示や業務停止等の行政処分の対
象とするのみでは実効性を欠く。そこで、購入者に対する請求権の行使が制限されるとともに、損害賠償責任を負担することを内容とする民事的効果を規定すべきである。こうした民事的効果は、「抗弁の対抗」と重複する面もあるが、例えば、名義借り等の事案で購入者に背信的事情があって抗弁が主張できないと扱われるような場合であっても、クレジット会社が加盟店管理を尽くしていなかったときは購入者に対する請求権を制限されたり、購入者がいわゆる拡大損害を被った事案ではクレジット会社に対しても損害賠償請求が可能となるなどの意味がある。
8 過剰与信の規制
(1)現行割賦販売法38条は、「割賦販売業者等は、購入者の支払い能力を超えると認められる割賦販売等を行わないように努めなければならない」と規定してはいるが、違反に対する制裁を伴わない訓示規定に止まっているため、全く実効性がない。支払い能力を明らかに超えるクレジット契約を前提とする販売を行った加盟店の担当者は、「クレジットが組めるのだから問題がないと思って販売した」旨を弁解するのが常である。
(2)言うまでもなく、近年の多重債務者の増加は、与信業者が債務者の支払い能力を無視した「過剰与信」によるところが大きい。例えば、わずかな年金収入しかない高齢者や、安定した収入のない主婦、若者らにクレジットで高額な商品を次々に販売して支払い困難に陥らせるケースや、既に多重債務を負担している者に更に次々と与信を重ねて、雪だるま式に債務額を増大させるケースが蔓延している。
多重債務の問題は、借り手の自覚を唱えるだけで解決しうるものではなく、「貸し手の注意」を義務づけない限りは解決できない性質のものである 。
(3)したがって、早急に実効性を伴った過剰与信規制を行う必要があり、クレジット取引が禁止される類型を定めてその判断基準を明確化すると共に、これに違反した場合は、行政処分の対象とするほか、民事的効果も定めることが不可欠である。具体的には以下のとおりである。
(4)第1に、クレジット取引を禁止すべき類型は、「①支払能力を超えるとき」、「②個人信用情報機関に事故情報が登録されているとき」、「③個人信用情報機関に与信禁止依頼がなされているとき」とすべきである。そして、保証人に対する過剰与信を防止する観点から、上記①ないし③に該当する者を保証人とすることも禁止すべきである。
(5)第2に、前記の類型のうち「①支払い能力を超えるとき」の判断基準は、政令で具体的に定めることが適切であろう。
その場合の「総枠規制」としては、差押え禁止の範囲が原則として給料
の75%であること、住宅ローンの返済限度額が概ね年収の30%とされていることなどから、「既存の金銭貸し付け及びクレジット等による債務も含めた総債務に対する年間支払額が、手取り年収額の30%」ことを原則的基準とすべきである。
(6)そして、こうした過剰与信規制を実行化するため、クレジット会社や割賦販売業者による違反があった場合には、改善指示や業務停止等の行政処分の対象とするのみならず、購入者等に対する請求権を制限する規定を設けるべきである。
この点、過剰与信の事案における裁判例の到達点としても、過剰与信に該当する部分の請求を権利の濫用ないし信義則違反として制限しているところである(例えば、釧路簡易裁判所平成6年3月16日判決・判例タイムズ842号89頁)。
(7)以上に関連して、クレジット会社や割賦販売業者に対しては、購入者及び保証人からの聴取とともに個人信用情報機関の利用によって、支払い能力等を調査することを義務づける必要がある。
さらには、そうした調査の結果とクレジット契約を行うことが可能であると判断した理由を記載した与信調査記録の作成を義務づけ、一定期間保存させると共に、購入者等からその開示を求められたときにはこれに応じる義務を課すべきである。
9 以上の次第で、当会は、本意見書の内容をもって割賦販売法を早急に改正することを求める。
平成18年11月14日
福井弁護士会
会 長 山 川 均