会長声明 2010年05月31日 (月)
全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明
当会は,国に対し,国選付添人制度の対象事件を,観護措置決定により少年鑑別所に送致された少年の事件全件にまで拡大するよう,速やかに少年法を改正するよう求める。
記
1 弁護士は、少年審判手続きにおいて,「付添人」という立場で,事実認定や処分が適正に行われるよう、少年の立場から関与している。
少年は,精神的に未熟であることから取調官に迎合しやすいため,成人より冤罪発生の危険が大きく,適正手続きの観点から弁護士付添人の援助が必要である。
また,少年審判を受ける少年の多くは、生育歴、家庭環境に大きな問題を抱え、信頼できる大人に出会えないまま非行に至っている。とりわけ,少年鑑別所に身体拘束された少年は、大きな問題を抱えている。弁護士付添人は,そのような少年を受容しつつ反省を促し,家庭,学校,職場などに働きかけ少年を取り巻く環境を調整し,少年の更生を手助けする存在として必要である。
弁護士付添人のこうした活動は,再非行の減少につながり,社会的にも意義のあるものである。
2 ところが、2008年における弁護士付添人選任率は,少年鑑別所に身体拘束された少年の約40%に止まっている。成人の刑事裁判では約98%の被告人に弁護人が選任されていることに比べれば、少年に対する法的援助は著しく不十分であると言わざるを得ない。
この原因は,少年に国選付添人が選任される場合が極めて限定されていることにある。すなわち,成人の刑事裁判ではほぼ全ての事件について国選弁護人が選任されるのに対して,少年審判手続で国選付添人が選任されるのは,①殺人や強盗などの重大事件について裁判所の裁量で選任される場合,②被害者傍聴の申し出がなされた場合,③検察官関与決定がなされた場合に限定されているのである。2008年における国選付添人選任率は,少年鑑別所に身体拘束された少年の約4%にすぎない。
また、成人の場合は起訴前・起訴後を通じて国費により弁護人の援助を受ける機会が与えられているのに対し、少年の場合には、被疑者段階においては,被疑者国選弁護制度により弁護士の支援を受けることができるが,家庭裁判所送致後は,極めて限定的な場合にしか国選付添人が付されないという制度に止まっていることから、多くの少年に弁護士付添人が付かないまま審判を受けるという事態が生じている。少年に対する法的援助に対する保障が,成人よりも不十分であるというのは不均衡である。
3 このような状況の下、日本弁護士連合会は,付添人の必要性を自覚し、全ての会員から特別会費を徴収して少年・刑事財政基金を設置し、弁護士費用を賄えない少年に私選付添人の費用を援助する少年保護事件付添援助制度を実施してきた。
また、当会では、2008年5月から、観護措置決定により身体拘束を受けた少年の要望があれば、弁護士が無料で少年と面会して助言を行う当番付添人制度を実施し,当会会員は,これを契機として積極的に少年保護事件付添援助制度を利用し、私選付添人となって精力的・献身的に活動している。
しかし、審判手続きにおける適正手続きを保障し,更生を支援するという法的援助を与えることは,本来国の責務である。我が国が批准した子どもの権利条約37条(d)が「自由を奪われたすべての児童は、・・・弁護人(及び)その他適当な援助を行う者と速やかに接触する権利を有する」と規定しているところである。法的援助を必要とする少年に対し、国費で付添人を付けることができる権利を保障すべきである。弁護士会の財政的負担によって支えられている少年保護事件付添援助制度に頼るべきではない。
4 よって、当会は、政府に対し、国選付添人制度の対象事件を観護措置決定により少年鑑別所に身体拘束された少年の事件全件にまで拡大する少年法改正を速やかに行うよう求めるものである。
2010(平成22)年 5月31日
福 井 弁 護 士 会
会長 井 上 毅