会長声明 2013年08月01日 (木)
個人保証の原則的な廃止等を求める会長声明
第1 声明の趣旨
法制審議会は,中小企業などに融資する際に,銀行や貸金業者が求める個人保証を,原則として禁止する民法改正を検討している。
そこで当会は,債権法の改正にあたり,保証制度に関して,下記のような改正を行うよう求める。
記
1 個人保証を原則として廃止すること。
2 個人保証の例外は、経営者保証等極めて限定的なものに限るものとすること。
3 例外的に個人保証を許容する場合においても,保証契約の要式行為化・保証意思確認の徹底,保証契約締結の際の債権者による重要事項の説明や債務者の支払能力等に関する情報提供の義務化,保証契約締結後の債権者による履行状況報告の義務化,貸金等に限定しない根保証規制の拡大等の,保証人保護の制度を設けること。
第2 提案理由
1 保証被害の実態
保証契約のうち,とりわけ個人が保証人となる場面(以下「個人保証」という。)における被害の深刻さは重大である。
すなわち,個人保証は,保証人の破産や個人再生申立の主要な原因になっており,保証人だけではなく,その親族等の人生にも破壊的な影響を及ぼしている。保証被害に陥った保証人の行く末は,生活破壊,人的関係の崩壊にとどまらず,自ら命を絶ってしまう例も珍しくない。自殺者は,昨年ようやく年間3万人を下回ったものの,これまで10年以上の長期にわたって年間3万人を超えているが,その中には自殺原因として経済的理由によると思われるものが相当数おり,これらには自らの保証人としての責任を苦にした人や保証人に迷惑をかけることを苦にした人も含まれている。
保証人は,保証契約の趣旨や自身の債務額を十分に理解・予測できずに保証契約を締結する場合も多く,いざ現実に主債務者が破たんしてしまった場合に,支払不可能な保証債務を負ってしまうという事例が後を絶たない。
そこで,このような深刻な被害と社会的損失を発生させている個人保証は,原則として廃止すべきである。
2 個人保証禁止に伴う弊害について
これに対して,個人保証を原則廃止することについては,貸し渋りへの懸念が指摘されている。
しかし,金融実務では,個人保証に頼らない実務慣行が作られつつある。たとえば,信用保証協会が行う保証制度では,原則として,経営者本人以外の第三者を保証人として求めていない。金融庁も,金融機関に対する監督指針において,経営者以外の第三者の連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立を求めている。
以上のように,社会の動向も個人保証を原則として廃止する方向に進んでいるのであり,個人保証を一定の範囲で認めるとしても,その場面は,法人代表者による経営者保証など,ごく限られた範囲に限定されるべきである。
そして,個人保証制度が例外的に許容される場面においても,保証人が保証の趣旨を十分理解しないまま予期せぬ債務を負担したり,支払い能力を超える過大な保証債務の履行を求められたりすることにより,保証人やその親族等の生活が破壊されることなどがないよう,十分な配慮が図られるべきである。
第3 結語
以上のような理由から,当会は,前記第1のような民法改正を求める次第である。
2013年(平成25年)8月1日
福 井 弁 護 士 会
会 長 島 田 広