会長声明 2016年11月25日 (金)
いわゆる共謀罪新法案の国会提出に反対する会長声明―市民の自由が脅かされ,いつの間にか処罰されてしまう世の中にしないために
2003年(平成15年)から2009年(平成21年)にかけて3回にわたり国会に提出され,広範な市民の反対で廃案となった共謀罪創設規定を含む法案(以下,廃案となった法案を「旧法案」という)について,今般,政府は,テロ対策の一環として,「共謀罪」を「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」(以下「テロ等組織犯罪準備罪」という)と名称を改めて取りまとめた新たな法案(組織的犯罪処罰法改正案,以下,「新法案」という)を本年9月に招集された臨時国会に提出の準備をしていると,マスコミが一斉に報じた。
これらの報道によれば,「新法案」は,「テロ等組織犯罪準備罪」を新設するほか,旧法案において,適用対象を単に「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」とし,また,その定義について,「目的が長期4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とした。さらに,犯罪の「遂行を2人以上で計画した者」を処罰することとし,その処罰に当たっては,計画をした誰かが,「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」という要件が付されている。
しかし,「計画」とは旧法案の「共謀」の言い換えに過ぎず,共謀を処罰するという法案の法的性質は何ら変わっていない。また,「組織的犯罪集団」の認定は捜査機関が個別に行うため解釈によっては処罰される対象が拡大する危険性が高いし,「準備行為」についても,例えばATМからの預金引き出しなど,予備罪・準備罪における予備・準備行為より前の段階の危険性の乏しい行為を幅広く含み得るものであり,その適用範囲が十分に限定されたとみることはできない。さらに,「新法案」では,旧法案と同様に600以上の犯罪を対象に「テロ等組織犯罪準備罪」を作ることとしているものとしているほか,越境性も要件とされていないことから,市民団体や労働組合,NPO等の活動までもが処罰の対象となるおそれも否定できない状況に変わりはない。
要するに,「新法案」は,外形的行為の認められない意思形成段階に過ぎない共謀それ自体は処罰しないというのが我が国の刑法の大原則であるにもかかわらず,これに真っ向から反するものであり,依然として市民の自由と権利が脅かされるおそれがある点では何ら変わりがないものと言わざるを得ない。
さらに,今般の刑事訴訟法改正に盛り込まれた通信傍受制度の拡大に「新法案」が加わったときには,テロ対策の名の下に市民の会話が監視・盗聴され,市民社会のあり方が大きく変わるおそれさえあると言わなければならない。
既に当会においては,2005年(平成17年)10月及び2006年(平成18年)4月に,「旧法案」におけるいわゆる「共謀罪」新設は,刑法の大原則に反し,市民の自由と権利が脅かされるものであるとして,反対する旨,会長声明を出している。
「新法案」は,憲法の保障する思想・信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由等の基本的人権に対する重大な脅威になるばかりか,刑法の基本原則を否定するものであり,当会は「新法案」の国会への提出に強く反対するものである。
2016年(平成28)年11月25日
福井弁護士会
会長 海 道 宏 実