意見書 2013年09月17日 (火)
「特定秘密の保護に関する法律案の概要」に対する意見書
2013年(平成25年)9月17日
内閣官房内閣情報調査室御中
福井弁護士会
会 長 島 田 広
当会は,2012年(平成24年)7月25日付け「秘密保全法制定に反対する会長声明」において,秘密保全法の制定に反対したが,今般,「特定秘密の保護に関する法律案の概要」(以下「『概要』」という。)が公表されたので,改めて意見を述べる。
第1 意見の趣旨
日本国憲法の基本原理を尊重する立場から,「特定秘密の保護に関する法律案」(以下「本件法案」という)に強く反対する。
第2 意見の理由
以下に述べるように,国民主権原理から要請される知る権利を侵害するなど,憲法上の諸原理と正面から衝突するものであり,国民の間で議論が十分になされていない状況下で立法化を早急に進めることは,民主主義国家の政府の態度として極めて問題である。仮に「拡張解釈」「基本的人権の侵害」を禁じる規定が設けられたとしても,下記の問題点を解消するものではない。
1 立法事実を欠くこと
国民主権原理や国民の憲法上の権利などに重大な影響を与えるおそれのある法案の立法化が是認されるためには,当該法案を必要とする具体的事情(立法事実)の存在が必要不可欠であるが,本件法案は立法事実を欠いている。
秘密保護法制検討のきっかけとなった尖閣諸島沖中国船追突映像流出は,国家秘密の流出というべき事案とは到底言えないものであり,立法を必要とする理由を欠くと言わざるを得ない。仮に,秘密とされるべきものがあるとしても,秘密保護のために新たな法制を設ける必要性はなく,国家公務員法等の現行法制でも十分に対応できるものであり,新たな法制化の必要性が何ら示されてはいない。
2 「特別秘密」が曖昧かつ広範で,国民の知る権利を害し罪刑法定主義に抵触すること
「概要」では,規制の鍵となる「特別秘密」の概念が曖昧かつ広範であり,かつ,何を特別秘密とするかを決めるのが各行政機関に委ねられており,本来国民が知るべき情報が国民の目から隠されてしまう懸念が極めて大きい。
また,罰則規定に,このような曖昧な概念が用いられることは,処罰範囲を不明確かつ広範にするものであり,罪刑法定主義等の憲法上の権利と矛盾抵触するおそれがある。
3 禁止行為が広範で,取材行為等に強い萎縮効果を及ぼすこと
また「概要」では,禁止行為として,漏洩行為及び「特定取得行為」の独立教唆,煽動行為,共謀行為を処罰するとしており,そこでの禁止行為は広範であり,単純な取材行為すら処罰対象となりかねない。取材及び報道に対する萎縮効果が極めて大きく,国会議員,国の行政機関,独立行政法人,地方公共団体,一定の場合の民間事業者・大学に対して取材しようとするジャーナリストの取材の自由・報道の自由ひいては国民の知る権利が侵害されることとなる。
4 人的管理はプライバシー侵害であること
「概要」では,特別秘密を取り扱う者自体の人的管理についての規定をおくとしている。人的管理の為の調査事項は,スパイ活動やテロ活動との関連性のほか,犯罪・懲戒の経歴,情報の取扱いに係る非違の経歴,薬物の濫用・影響,精神疾患, 飲酒の節度,信用状態など,通常他人に知られたくない個人情報が多く含まれ,さらには,一定の項目に限ってではあるが家族に関する個人情報まで調査の対象とするとされている。これらの調査を通じて,適性評価の調査の名の下に対象者のプライバシーが著しく侵害されるおそれがある。
情報システムの管理に対する無関心やルーズさにこそ問題があることを自覚し,見直すべきであって,人的管理の対象者及びその周辺の人々のプライバシーを侵害するような方向は本末転倒である。人的管理に偏することなく,むしろ作成・取得から廃棄・移管までの各段階において,情報システムの管理の徹底など個別具体的な保全措置を講ずる物的管理と組み合わせることにより対応すべきである。
5 まとめ
今政府に求められているのは,国民の知る権利を保障する積極的な情報公開の推進なのであって,日本国憲法の基本原理と衝突する秘密保護法の制定ではない。
以上の理由から,当会は,本件法案の国会提出に強く反対するものである。