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声明・意見書

会長声明 2022年06月28日 (火)

SNS事業者の本人確認義務等に関する会長声明

1 SNSを犯罪ツールとして悪用した被害の増加

ソーシャルネットワークサービス(以下「SNS」という。)は、利用者数が増加の一途をたどり、生活に欠かせないコミュニケーションツールとして社会的に極めて重要な役割を果たすようになっている。

そのため、SNSが犯罪ツールとして悪用される事案も多発している。このことは、SNS事業で日本最大のシェアを有するLINE株式会社(以下「LINE社」という。)が公表している、日本の捜査機関からの開示請求要請件数が増加傾向(少なくとも高止まり傾向)にあることからも分かる。

また、消費者のデジタル化への対応に関する検討会が令和2年7月に公表した報告書においては、SNSで知り合った相手からの誘いがきっかけとなる消費者トラブルが増加していると指摘されている。

 

2 不十分な本人確認規制

このようにSNSが犯罪ツールとして悪用され、あるいはSNSをきっかとした消費者トラブルが増加する一因として、SNS事業者による本人確認規制が不十分なままであることが考えられる。

たとえば、LINE社が提供する「LINE」のユーザーとして新規登録するには、住所・生年月日のみならず名前(実名)の登録すらも不要である。また、LINEへの新規登録を行うには電話番号の登録及びショートメールサービスを用いた認証(以下「SMS認証」という。)が必要であるものの、SMS認証は、必ずしもショートメールが送られた先の携帯電話の契約者が新規登録者であることを保証するものではない。そして、こうした本人確認が不十分である実態は、LINE社のみならず、多くのSNS事業者に共通しているのが現状である。

このように、SNS事業者の本人確認は不十分であるが、現在の法規制は、携帯電話不正利用防止法上の携帯音声通信事業者や、犯罪収益移転防止法上の電話受付代行業者・電話転送サービス事業者等に本人確認義務を課しているにとどまる。そのため、携帯電話通信に該当せず、電話回線を使用しないLINE等のSNSは、当該規制には服さないものとなっている。

 

3 被害救済の困難性

仮に正しい情報が登録されたとしても、たとえばLINEでは、登録電話番号が他者に表示されることはなく、LINE IDの登録が任意であり、登録してもメッセージ画面には表示されないため、他者に対して自らの身元を秘匿したままコミュニケーション機能を利用できる仕組みとなっている。

そのため、被害者が加害者を特定する情報を全く得られない事案が非常に多く、被害者が詐欺行為等に用いられたLINEアカウントについて、LINE社に対し、相手方を特定するための情報について照会しようとしても、LINE社に対し照会を行う手掛かりすら得られず、被害回復ができない結果となる。

ごくまれに、被害者が詐欺行為等に関与した相手方のLINE IDを把握できていることがあるが、この場合であっても、LINE社は、詐欺行為等に関与した相手方を特定するための情報に関する弁護士法23条の2に基づく照会(以下「弁護士会照会」という。)に対し、回答することに消極的な傾向にある。

また、LINE社は、弁護士会照会に対し、「対象アカウントが退会しているので調査できない」旨の回答をすることもある。仮にLINE社が退会した利用者の情報を直ちに削除するような運用を行っているとすれば、詐欺行為等に関与する者らが被害者から金員を詐取した後にLINEアカウントを削除してしまえば詐欺行為者らを特定する情報は全く存在しないことになり、詐欺行為者らは、容易に逃げおおせてしまうことになる。

このようなLINEの仕組みないしLINE社の運用は、LINEが利用された詐欺行為等の被害救済を極めて困難にしている。

 

4 弁護士会照会への回答が通信の秘密を侵害しないこと

なお、SNS事業者が、利用者の電話番号やメールアドレス等に関する弁護士会照会に対し、通信の秘密(憲法21条2項後段、電気通信事業法4条、同法179条)を侵害することを理由に回答を拒否することも考えられる。

この点につき、総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平成29年総務省告示第152号。最終改正平成29年総務省告示第297号)の解説」において、「個々の通信とは無関係の加入者の住所・氏名等は、通信の秘密の保護の対象外であるから、基本的に法律上の照会権限を有する者からの照会に応じることは可能である。」としている。また、携帯電話事業者は、通信の秘密を守るべき電気通信事業者であるが、契約者の住所・氏名等が個々の通信の内容が推知されるものではないことから通信の秘密の保護の対象外であるとして、弁護士会照会に回答してきた実績がある。

SNS事業者が弁護士会照会に対し回答する場合も同様であり、電話番号やメールアドレス等の照会に回答したとしても、個々の通信の内容が推知されるものではなく、通信の秘密を侵害するおそれはない。

 

5 有効性のある措置

上記のような問題に対処するための有効な措置として、以下のようなものが考えられる。

第1に、SNS登録時に本人確認を義務化すべきである。本人確認の際は、公的な身元確認書類によって氏名・住所・生年月日を確認することが望ましい。

第2に、被害者がSNSを用いた詐欺行為等を行う者らのアカウントを特定する情報を取得できるような体制を整備すべきである。たとえば、被害者からSNS事業者に対する通報や、被害者が依頼した弁護士からのSNS事業者に対する通知に基づき、SNS上のIDや、それに代わるSNS上のアカウントを特定しうる情報を開示するなど、相手方特定を可能とするような適切な措置を講ずることなどである。

第3に、詐欺行為等に関与した相手方を特定する情報について、弁護士会照会がなされた場合、照会先に報告義務があることを踏まえ(最高裁第三小法廷平成28年10月18日判決)、照会先であるSNS事業者は事案及び照会事項に応じて適切に報告しなければならない点を、周知徹底させるべきである。

第4に、犯罪収益移転防止法が定めるように、たとえ相手方がSNSのアカウントを削除したとしても、SNS事業者が同相手方の特定情報を直ちに削除することのないよう、本人確認記録の適切な保管義務等を課すべきである。

 

6 調査及び有効な措置の検討要請

以上を踏まえ、当会は、以下の要請をする。

第1に、総務省、消費者庁及び消費者委員会に対し、①SNSが詐欺行為や消費者被害の誘引手段として使用されている実態、②特に利用者の登録時に本人確認を十分に実施していないSNSが詐欺行為等の誘引手段として多用されている実態、③SNS事業者による本人確認記録の保管状況、④SNS利用者を特定する情報について弁護士法23条の2に基づく照会がされた場合のSNS事業者の対応状況等を調査するよう求める。

第2に、総務省に対し、前記調査を踏まえ、SNS事業者の本人確認義務の導入、SNS利用者を特定する情報の照会に対してSNS事業者が適切な対応をするための対策及びSNS事業者の適切な本人確認記録の保管義務の導入等、民事裁判・交渉における相手方特定のための実効性ある措置を検討するよう求める。

第3に、消費者庁及び消費者委員会に対し、前記調査を踏まえ、総務省に対し実効性ある措置を速やかに講じるよう適切な働きかけ又は意見表明の実施を検討することを求める。

 

令和4年(2022年)6月28日

福井弁護士会会長  紅 谷 崇 文

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