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声明・意見書

会長声明 2014年03月14日 (金)

過労死等防止基本法の成立を求める会長声明

1 過労死が社会問題となり,「karoshi」が国際語となって20年以上が経過した。しかし,未だに労働災害に認定される過労死は存在しており,近年は精神疾患に基づく過労自殺(自死)の問題に広がりを見せるなど,一層深刻化している。
 労働基準法第32条は,その第1項において「使用者は,労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間を超えて,労働させてはならない。」と定め,その第2項において「使用者は,1週間の各日について,労働者に,休憩時間を除き1日について8時間を超えて,労働させてはならない。」と定めている。しかし,同法第36条により,使用者が労働者の過半数を代表する労働組合等と時間外・休日労働協約を結び,労働基準監督署に届け出れば,何時間の残業でも可能となる。このため,同法の規制は,過重労働に対しては十分に機能していないといわざるを得ない。
2 過重労働に対する法的規制が十分でない中,日本社会には依然として多くの過労死・過労自殺(自死)が存在している。
 例えば,過労死・過労自殺(自死)による死亡者数の一端を示すと考えられる厚生労働省の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」によれば,2012年度の脳・心臓疾患に関する事案(過労死を含む)の労災補償の請求件数は842件,支給決定件数は338件であった。また,精神障害に関する事案(過労自殺を含む)の労災補償の請求件数は1257件,支給決定件数は475件と,前年度に引き続き高水準で推移している。特に精神障害に関する事案の労災補償の支給決定件数は,前年度比150件増で過去最多となっている。
 また,警察庁の自殺統計によれば,2012年中の自殺(自死)者総数2万7858名の中で,原因・動機が「勤務問題」と特定されたケースは2472名であった。この他,原因・動機が特定されなかったケース7243名の中にも相当数の過労自殺(自死)者が含まれるとみられ,また他の原因・動機と特定されたケースの中にも過労自殺(自死)者が含まれる可能性があることからすれば,多数の過労自殺(自死)が発生していることは統計上も裏付けられているといえる。
3 このような状況の中,過労死等防止基本法の制定の機運は大きく高まっている。
 これまで既に,兵庫県議会,島根県議会,宮崎県議会及び和歌山県議会の4つの県議会と72の市町村議会において,同法の制定を求める意見書が採択されている。日本弁護士連合会も,2012年10月に開催された第53回人権擁護大会において「強いられた死のない社会をめざし,実効性のある自殺防止対策を求める決議」を採択し,過労自殺(自死)を含む自殺(自死)防止の実効性ある対策の実施を求めた。また,2013年5月17日には,国連の社会権規約委員会が,日本政府に対し,過労死防止対策の強化を求める勧告を行った。さらに同年6月には,過労死等防止基本法の制定を求める超党派の議員連盟が発足し,同年12月10日現在で124名を超える国会議員が参加している。遺族や弁護士らが集めた同法の制定を求める署名は,2014年3月現在,53万筆を超えている。
4 そして,上記超党派の議員連盟に所属する野党議員が,2013年12月4日,過労死等防止基本法案を衆議院に提出した。同法案は,その基本理念として,過労死・過労自殺等はあってはならないこと及び社会的・経済的な取組として対策を実施すること等を定めるほか(第3条),国が,過労により重篤な疾患にかかった者及びその家族,過労死・過労自殺被害者の遺族並びに専門家で構成する過労死等防止推進協議会の意見を聴いて,過労死等防止基本計画を作成すること(第11,20,21条),政府が国会に過労死等の概要や防止対策の実施状況を毎年報告することを定め(第10条),事業主に対しても,国や自治体に協力するとともに,自ら雇用する労働者の健康保持に必要な措置を講じるよう努めることを求めている(第6条)。
5 過労死・過労自殺(自死)によって命を絶たれた労働者とその遺族の無念と苦悩は計り知れない。過労死・過労自殺(自死)が多発するような劣悪な労働環境が今後も放置され,国民の生命・身体という最も守られるべき法益が危険にさらされ続けるのであれば,労働者は安心して働き続けることができず,ひいては労働意欲も低下する。そのような状況は,労働者のみならず,企業にとっても到底望ましいものとはいえない。しかし,過労死・過労自殺(自死)の問題に,個々の労働者・家族や個々の企業の努力だけで対処するのには限界がある。それゆえ,過労死・過労自殺(自死)の防止については,国が基本法を制定し,国全体で防止体制を整えるべきである。
 よって,当会は,過労死・過労自殺(自死)を根絶することを目的とする過労死等防止基本法の速やかな成立を強く求めるものである。

2014年(平成26年)3月14日
福井弁護士会
会長 島 田  広

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