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声明・意見書

会長声明 2022年05月20日 (金)

死刑執行に抗議する会長声明

2021年(令和3年)12月21日、東京拘置所において2名、大阪拘置所において1名の死刑が執行された。岸田内閣が組閣され、古川禎久法務大臣が就任後、わずか79日目での執行となった。

 

確かに、突然に不条理な犯罪の被害にあい、大切な者の生命を奪われた状況において、被害者の遺族が厳罰を望む処罰感情は自然な心情であり、加害者に対して死をもって償うことを求めたいという気持ちも十分に理解できるところである。

他方で、死刑は、生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害であり、刑事司法制度の運用は人間が行う以上、誤判の危険性を完全に排除することができないものである。死刑は生命を奪う刑罰であって、誤判の場合、事後的な回復が不可能である。犯人に対して死を持って償うことを求めたいという素朴な気持ちは理解できるが、無辜の者が不幸にも犯人と疑われた末、誤判がなされる具体的な恐れがなくなることはない。誤った死刑が執行される恐れがあることは、これまでの複数の再審開始決定が明らかにしている。

 

世界で死刑を廃止また事実上廃止した国は2019年12月31日時点で142か国に及び世界で3分の2以上の国数を占めている。2021年7月には、米国の司法長官が、連邦レベルでの死刑の執行を停止する指示を出している。米国が死刑を廃止した場合、OECDに加盟する38か国のうち現在も死刑を執行しているのは日本と米国の一部の州だけとなる。

日本が米国と韓国以外の国と犯罪人引渡し条約を締結できていない原因として日本に死刑制度があることが理由とされている。2020年には、日本に死刑制度があることを理由として南アフリカから被疑者の引き渡しを拒まれたとの報道もなされている。

死刑制度の廃止の国際的潮流の中にある上、人権の観点から様々な国際機関から死刑の廃止を求める勧告が日本になされている。死刑制度の存在によって外交上の不利益が今後生じる恐れもあり、死刑制度の存廃について、各国において独自に決定すべき問題とはもはや言えなくなっている。

 

日本弁護士連合会は、上記のような理由から2016年に福井県において開催された第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し、国に対し、死刑制度の廃止や懲役刑と禁固刑の一元化などを提言してきた。

法制審議会は、2020年に、懲役刑と禁固刑を一元化して拘禁刑に再編する刑法改正を答申した。これは罪を犯した人の真の改善更生と社会復帰を志向する刑罰制度を目指すものであるが、死刑制度は、罪を犯した者の更生を志向しない刑罰であり、かかる拘禁刑の理念と相いれないものである。

 

当会においても、2013年(平成25年)に市民参加の下、「死刑を考える日2013」を開催し、また、2015年度(平成27年度)に設置された中部弁護士会連合会内の死刑問題検討ワーキンググループにおいても、死刑廃止を考えるシンポジウムを開催し、また、会内勉強会を行うなど、福井のみならず中部地方の各弁護士会において、より幅広く死刑廃止に向けた全社会的議論への取り組みを着実に進めてきている。

 

当会は、今回の死刑執行に対して強く抗議し、直ちに死刑の執行を停止して死刑に関する情報を広く国民に公開することを要請し、死刑制度についての全社会的議論を求めるとともに、死刑制度を廃止する立法措置を講じることを改めて求めるものである。

 

令和4年(2022年)5月20日

福井弁護士会会長  紅 谷 崇 文

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