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声明・意見書

会長声明 2018年10月26日 (金)

死刑執行に抗議する会長声明

 2018年(平成30年)7月6日,7名の者に対し,また,同年7月26日には,同じく死刑確定者6名についてそれぞれ死刑が執行された。これらの者は全て,いわゆるオウム真理教に関する事件において死刑判決となった者たちである。

 今回執行された者のうちの多くは再審請求中であった。再審請求中の死刑執行は司法の判断を軽視するもので極めて異例であり,およそ是認できるものではない。

 

 死刑制度は,死刑が人間の生命を奪うという非人道的行為であること,EUを中心とする世界の約7割の国々が死刑を廃止又は停止していること,誤判・冤罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないこと,などの様々な問題を内包していることは,これまでも当会会長声明などにおいて繰り返し指摘してきたとおりである。

 全ての人間に生命についての権利があり,この権利は,誰からも侵されることのないものである。しかし,死刑制度は,生きてはいけない生命を国家がその手で選別する仕組みであり,これは人を殺してはならないという社会規範と相反するものであるばかりか,権力による恣意的な運用の危険を内包しているという点でも,基本的人権の尊重を基調とした近代社会の在り方からして,もはや廃止すべき刑罰制度であるというべきである。

 もちろん犯罪被害者や遺族の被害感情に対し真摯に向き合い,十分な配慮をすることも大変重要な事である。しかし,刑罰制度全体を考えるとき,このような応報感情はその根拠となる要素の一つにすぎず,また,死刑を科すことだけでその感情が満足されるものではない。

 日本弁護士連合会は,2016年(平成28年)10月7日,我が福井県で開催された第59回人権擁護大会において,これまでよりさらに踏み込んで,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,その中で,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年(平成32年)までに死刑制度の廃止を目指すべきであることを宣言した。その宣言においては,犯罪被害者・遺族に対する十分な配慮と支援が不可欠であるとしつつも,人権を尊重する民主主義社会であろうとする我々の社会においては,死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体を見直す必要があるとして,直ちに公の議論を始めるよう求めている。

 

 当会においても,2013年(平成25年)に市民参加の下,「死刑を考える日2013」を開催し,また,2015年度(平成27年度)に設置された中部弁護士会連合会内の死刑問題検討ワーキンググループにおいても,死刑廃止を考えるシンポジウムを開催し,また,会内勉強会を行うなど,福井のみならず中部地方の各弁護士会を挙げて,より幅広く死刑廃止に向けた全社会的議論への取り組みを活発に進めてきている。

 

 当会はこれまでの死刑執行に対しても強く抗議してきたところであるが,手続的な議論を経ないままなされた今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに,死刑執行を停止し,2020年までに死刑制度を廃止することを求めるものである。

 

 2018年(平成30年)10月26日

 

 福井弁護士会

     会長 前 波 裕 司

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