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声明・意見書

会長声明 2022年05月24日 (火)

ロシア連邦のウクライナに対する軍事侵攻問題に関する会長声明

1 2022年(令和4年)2月24日にロシア連邦がウクライナに対して軍事侵攻を開始してから、約3か月が経過した。国連総会によるロシア連邦への非難決議や国際社会による経済制裁等にも関わらず、ロシア連邦大統領のプーチン氏は、現在のところ停戦に応じない姿勢を強調し、最新兵器の開発を誇示したり、核兵器の使用を示唆する発言を繰り返したりしている。最近では、軍事侵攻を正当化する発言もしており、更に戦況が悪化し、長期化する懸念が増す状況である。

 

2 この約3か月間にわたり、連日、ウクライナ国内に甚大な被害が発生していることが報道されている。ウクライナでは、幼い子どもを含む多数の国民が攻撃の犠牲になり、1000万人を超える国民が国内外への避難を余儀なくされている。さらに1000万人以上が避難できずに現地に留まったまま恐怖と窮乏にさらされており、一刻も早い救済が必要な状況である。

 

3 国際連合憲章は、第2条4項で「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」と定めている。ロシア連邦の軍事侵攻行為は、同規定に反する明確な国際法違反である。また、核兵器の使用を示唆する態度は、非人道的な破壊力によってウクライナと国際社会を威嚇しようとするものであり、到底容認できるものではない。

我が国の憲法では、恒久の平和を念願し、全世界の国民が等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認しており、この理念からしても、ロシア連邦の軍事侵攻行為は、到底容認することはできない。

 

4 また、ロシア軍は、チョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所及びヨーロッパ最大かつ世界最大級の原発であるザポリージャ原子力発電所等の原子力関連施設に対しても攻撃・占領等も行った。
原子力関連施設に関しては、ひとたび原子力災害が発生すれば、極めて広大な範囲に、長期的かつ深刻な放射性物質による汚染被害を引き起こし、多数の市民が避難を余儀なくされ続けるという事態に至らしめることは明らかである。ロシア連邦の核攻撃の示唆や軍による原子力関連施設に対する攻撃等は、ウクライナ国民はもちろんのこと、ロシア国民を含む全世界の国民を、深刻な被害の恐怖にさらすものである。

国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する規定を定めた、ロシア連邦も批准しているジュネーヴ諸条約第一追加議定書第56条1項は、原子力発電所について、放射性物質の放出など「危険な力の放出」を引き起こし、重大な損失をもたらすときは攻撃の対象としてはならないと定めており、ロシア軍による原子力関連施設に対する攻撃はこの規定にも違反するものである。

多数の原子力発電所が存在する福井県において活動する弁護士の団体としては、軍事攻撃からの防護が国際法上強く要請される原子力関連施設に対する攻撃を絶対に看過することはできない。

 

5 今回の戦争を機に、我が国でもウクライナからの難民受け入れが今後進むものと思われる。前述の日本国憲法の精神に則り、ウクライナ難民の生活の安全と人権が確保されるよう、国・自治体の対応が求められる。
他方、我が国においては、軍事侵攻と関わりのない国内のロシア人に対する中傷・差別、ロシア語やロシア文化の排除等の動きが散見されているが、極めて憂慮すべき事態である。ロシア連邦による軍事侵攻に対する抗議や非難とロシア人やその文化等に対する差別や排除とは厳格に区別されるべきであり、後者の動きは新たな人権侵害をもたらし、世界人権宣言、国際人権規約及びあらゆる形態の人種差別の撤廃を求める国際条約に反する恐れのあるものである。

 

6 以上より、当弁護士会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、ロシア連邦の行為に対して厳重に抗議するとともに、日本国政府を含む国際社会に対して、今後も引き続き和平交渉を積極的に行い、一日も早くロシア連邦による軍事侵攻が停止され、ウクライナ国内に平和で安定した生活が戻るように、より一層の努力を強く求める。当弁護士会としても、福井県内に暮らすウクライナ難民及びロシア人の人権の擁護に向けて、関係機関と連携しつつ取り組む所存である。

 

令和4年(2022年)5月24日

福井弁護士会会長  紅 谷 崇 文

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