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声明・意見書

会長声明 2021年02月17日 (水)

「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」に対する会長声明

1 本提言について
法務大臣の私的懇談会である第7次出入国管理政策懇談会(以下,「政策懇談会」という。)の下に設置された「収容・送還に関する専門部会」は,令和2年6月19日,報告書「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下,「本提言」という。)を公表した。
本提言には,一定程度評価できる点も含まれているが,当会は,①送還忌避者に対する罰則の創設,②送還停止効の例外の創設,③仮放免中に逃亡等をした者に対する罰則の創設の3点については,以下の通り,強く反対する。
2 送還忌避者に対する罰則の創設について
本提言には,退去強制令書が発付されたものの本邦から退去しない行為に対する罰則(以下,「送還忌避罪」という。)の創設を検討することが含まれている。
しかしながら,退去強制令書の発付を受けた者の中には,日本で生まれ育ち,日本に家族を有している者もいる。帰国した場合に迫害の危険にさらされるおそれがある者もいる。このような事情から本来保護されるべき者が,上記罰則が創設されると,不当に刑罰の対象となってしまう可能性が生じる。
また,退去強制令書の発付を受けた後に司法判断によって在留が認められる者が相当数いるが,そのような司法判断を受けていない当事者に対して罰則をもって帰国を強制することは,裁判を受ける権利等を侵害するおそれがある。
加えて,退去強制令書の発布を受けた者の支援者が共犯者とされる可能性が払拭できず,その活動を委縮させるおそれもある。
したがって,送還忌避罪の創設には反対である。
3 送還停止効の例外の創設について
本提言には,難民認定申請者に対する送還停止効の例外の創設を検討することが含まれている。
しかしながら,日本は,諸外国に比べ難民認定率が極端に低く,難民に認定すべき場合でも認定されていない例が相当数あることが強く推認される。実際に,複数回の難民認定申請によって難民と認定された者や,在留が許可された者が一定数存在している。難民認定制度が適正に機能していない中で,送還停止効に例外を設けることは,難民として保護すべき者を迫害の危険にさらすことにつながる。
したがって,送還停止効の例外の創設には反対である。
4 仮放免中に逃亡等をした者に対する罰則の創設について
本提言には,仮放免された者による逃亡等の行為に対する罰則(以下,「仮放免逃亡罪」という。)の創設を検討することが含まれている。
しかしながら,逃亡等をした仮放免者に対しては,保証金の没取などの措置がすでにとられており,新たな罰則を創設する必要はない。そもそも,逃亡等の背景には,無期限の収容をはじめとする被収容者の人権問題や,就労が認められない仮放免中の不安定な地位等の問題が存在しており,罰則の創設は抜本的な解決にはならない。加えて,送還忌避罪と同様,仮放免許可申請に関わった支援者が共犯者とされる可能性があり,その活動を委縮させるおそれがある。
したがって,仮放免逃亡罪の創設には反対である。
5 本提言公表後の状況
本提言においては,収容期間の上限が設けられておらず無期限の収容が許容されている,収容の開始又は継続時における司法審査が要件とされていない等の問題が残されたままであった。
そのような中,国連の恣意的拘禁に関する作業部会(以下,「作業部会」という。)は,令和2年8月28日,東日本入国管理センターに収容されていた通報者らの収容が「国際法違反の恣意的拘禁に該当する」旨の意見を採択した。当該意見において,作業部会は,出入国管理に伴う収容は例外的な最終手段でなければならない,無期限の入管収容は国際法違反である,司法審査を経ない入管収容は国際法違反である等と明言した上で,出入国管理及び難民認定法の見直しを日本政府に要請した。
しかしながら,政策懇談会が令和2年12月に法務大臣に提出した報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」においては,送還忌避者の増加と収容の長期化の課題については,本提言を踏まえて施策を実施すべきであるとされており,作業部会の意見が反映されないおそれがある。
6 結語
当会は,本提言には以上の点で反対するとともに,作業部会の意見を踏まえ,入管収容を最終手段と位置付け収容の要件を厳格に定めること,収容の開始又は継続時における司法審査や収容期間の上限を導入することなどによる長期収容問題の解決をはかるよう求めるものである。

2021年(令和3年)2月17日
福井弁護士会
会長 八木 宏

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