会長声明 2010年06月25日 (金)
司法修習生に対する給費制の存続を求める会長声明
1 裁判所法の改正により,平成22年11月から,司法修習生に対し給与を支給する制度(給費制)が廃止され,必要な者に生活資金を国が貸与する制度(貸与制)が実施される予定である。しかしながら,給費制の廃止は,質の高い法曹を養成するというわが国の法曹養成制度の理念に反するものと言わざるを得ない。
2 わが国において,司法制度を担う裁判官,検察官及び弁護士になるためには,司法試験に合格した後,さらに1年間の司法修習を終えることが必要である。司法修習は,法律実務に関する汎用的な知識や技法のみならず,市民の権利義務に直接関係する法曹として求められる高い職業意識と倫理観の習得をも目的とする。だからこそ司法修習生には修習に専念すべき義務が課され(一切の兼職が禁止される),この修習専念義務を担保するために,昭和22年に司法修習制度が創設されて以来一貫して,司法修習生には国庫から給与が支給されてきたのである。従来,わが国の法曹資格の門戸は,この給費制の下で,貧富の差を問わず広く開かれ,有為で多様な人材が法曹界に輩出されてきた。
3 その結果,法曹界は,民事紛争及び刑事事件の解決を通じて,国民経済及び国民生活における社会的基盤を確保してきた上,弁護士は,様々な活動を通じて,基本的人権の擁護と社会正義の実現に重要な役割を果たしてきた。当会においても,多重債務者に対する無料法律相談などの消費者保護活動,人権侵害に対する救済活動,高齢者の権利保護活動,交通事故の無料法律相談,犯罪被害者の支援活動,民事介入暴力への対策活動など主として社会的弱者を対象とした様々な活動を行ってきたところである。
しかし,平成16年の裁判所法改正により,司法修習生の給費制が廃止されたことは,このような法曹の社会的役割に対する国民の理解が得られ難くなっていることを意味しており,我々弁護士も,国民の理解を得るべく,今後さらに努力していく必要があると考える。
4 他方,平成16年の裁判所法改正の当時には想定されていなかった事態が発生している。すなわち,裁判所法改正後に始動した法科大学院への志願者は年を追うごとに減少している。その背景のひとつに,法科大学院の学費が多額に上り,生活費の負担も大きいことが指摘されている。現在,司法修習生の半数以上が法科大学院在学時に奨学金等の貸与を受けており,その借り入れ平均額は300万円を超えている。このような現状のもとで給費制を廃止するならば,司法修習生は法科大学院在学時の負債に加えて司法修習中にも更に300万円程度の負債を抱えることを余儀なくされ,そうなれば経済的事情から法曹への道を断念する者が益々増加し,高い志と能力を備えた有為な人材を広く法曹に求めんとした新しい法曹養成制度の基本理念に反する結果となる。
5 よって,当会は,国会,政府及び最高裁判所に対し,貸与制への移行を相当期間延期した上で,給費制を復活させる法改正を行うよう求め,かつ,給費制に対する国民の理解を求めるものである。
2010(平成22)年6月25日
福 井 弁 護 士 会
会長 井 上 毅