会長声明 2019年06月13日 (木)
最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明
福井地方最低賃金審議会は、本年8月頃、福井県の最低賃金額についての答申を行う予定である。2018年、同審議会は、25円の引き上げを答申し、その答申を受けて、福井県の地域別最低賃金額は、803円と決定された。
しかし、803円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、月収約14万円、年収約168万円にしかならない。この金額では、労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは困難であり、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」(最低賃金法第1条参照)を遂げることはできないと言わざるを得ない。特に、最低賃金近傍の賃金で働く非正規労働者の割合が増加していることから、低額な最低賃金額はフルタイムで働いても安定した生活を送ることができないワーキングプアを多く生み出す要因となっている。
また、2018年の最低賃金額の全国加重平均は874円であり、福井県の地域別最低賃金額とは大きな乖離がある。都市と地方の格差拡大が問題とされる中、最低賃金の地域間格差も依然として大きい。そもそも労働に対する価値評価が地域により異なることには疑問もあり、最低生計費は都市も地方も大きな差はない近時の状況下で、地域別の最低賃金を定める合理性は乏しい。実際、最低賃金の地域間格差により若者が高い賃金を求め地方から都市へ流出する傾向が強く、地方における人手不足や地域経済の衰退の一因となっている。
現在、与党内でも全国一律最低賃金制を目指す動きが見られ、最低賃金の地域間格差の解消は今後の政治課題にもなりつつある。
このような情勢に鑑みると、福井県においても地域間格差の解消を目指し、一層の最低賃金引き上げを目標とするべきである。
一方、最低賃金の大幅な引上げは、特に中小企業の経営に大きな影響を与えることが予想される。最低賃金の引上げが困難な中小企業のために、最低賃金の引上げを可能とするための社会保険料の減免措置や補助金制度等の構築を検討すべきである。さらに、中小企業の生産性を高めるための施策や減税措置などが有機的に組み合わされることが必要である。私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律や下請代金支払遅延等防止法をこれまで以上に積極的に運用し、中小企業とその取引先企業との間での公正な取引が確保されるようにすべきである。
本会は、昨年度も同内容の意見を述べたが、是正がみられない。
よって、本会は、昨年度に引き続き、福井地方最低賃金審議会に対し、主体的に、最低賃金の大幅な引上げを図ることを求めるとともに、政府に対して、最低賃金の引上げに取り組む中小企業に対する支援策や取引条件の改善等について、地方の実情を踏まえ、迅速かつ効果的な施策を講じることを求める。
2019(令和元)年6月13日
福井弁護士会会長 吉川健司