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声明・意見書

会長声明 2015年07月24日 (金)

少年法の適用年齢引き下げに反対する会長声明

 2015(平成27)年6月17日,選挙権年齢を18歳以上に引き下げる「公職選挙法等の一部を改正する法律案」が,参議院本会議において可決され成立した。

成年年齢引き下げについては,他の法律にも影響を与える事項であり,現に,この法律案には,「民法,少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする」との附則がある。

昨今,少年事件が凶悪化している,少年法が十分に機能していない等の意見がみられ,政府与党内などにおいて,少年法の適用年齢も現行の20歳未満から18歳未満に引き下げようとする議論がなされている。

 

 しかし,法律は,それぞれ立法趣旨が異なるのであり,すべての法律でその適用年齢を一律に考える必然性はない。

 公職選挙法は,衆議院議員,参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し,その選挙が選挙人の自由に表明する意思によって公明かつ適正に行われることを確保し,もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする法律である。他方,少年法は,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする法律である。

 このように,公職選挙法と少年法は,それぞれ立法趣旨が異なるのであって,それぞれ立法趣旨に沿った適用年齢が設定されるべきである。上記附則は,選挙犯罪との関係での調整を図る規定と解するべきであり,少年法の適用年齢を引き下げる根拠となるものではない。

 

 また,少年事件が凶悪化しているとの意見は,何ら根拠のない意見と言わざるを得ない。

 我が国における少年非行件数について,刑法犯少年の検挙人員は,1980(昭和55)年代前半の約20万人をピークとして減少傾向にある。特に,2004(平成16)年以降は11年連続で減少して,2014(平成26)年には5万人を割っている。また,殺人,強盗,放火,強姦等といった重大犯罪についても,昭和30年代半ばには約8000人が検挙されていたのに対し,2014(平成26)年には,703人にまで減少している。殺人事件(未遂等も含む。)に限定してみても,昭和40年代頃までは,200件を超えていたが,その後,減少し,近年は多い年でも年間20件前後に留まっている。

 このような客観的なデータに鑑みれば,刑法少年の検挙人員および少年による重大事件数は減少しているのであり,少年法の適用年齢を引き下げることを基礎づける立法事実は存在しない。

 また,少年法が十分に機能していないとの意見も何ら根拠のない意見である。

 少年法のもと,非行を犯したと考えられる少年は,全件,家庭裁判所に送致され,少年の成育歴や資質に踏み込んだ調査が行われる。その過程で,少年に内省を深めさせ,非行の背景にある環境を調整し,再度非行を犯すことがないように働きかけが行われている。保護観察および少年院においても,同様の働きかけが行われ,少年の立ち直りに成果を上げている。

仮に,一律に適用年齢を引き下げるとすれば,成年と同様の刑事手続に付されることになる。成人の刑事事件においては,多くの事件が起訴猶予や略式手続に付され,少年事件において行われているような調査や環境調整などは行われない。そうなれば,少年の立ち直りの機会が損なわれ,再犯リスクを高めることになる。
 また,現行少年法においても,一定の重大事件については,成人と同じ刑事裁判手続に付すことが可能なのであって,少年法の機能の面からみても,適用年齢を引き下げる必要性は乏しい。

 

 少年法の適用年齢の引き下げの議論にあたっては,各法律の立法趣旨や制度の検討をすることなく単純に連動させるべきではなく,個別の事件にのみ着目して十分な根拠ないままに議論をするのではなく,各法律の立法趣旨や制度について充分に検討し,客観的なデータにもとづく慎重な議論を行うべきである。

 以上の通りであるから,当会は,拙速な少年法の適用年齢引き下げに反対するものである。

 

2015(平成27)年7月24日

福井弁護士会

会長  寺  田  直  樹 

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