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会長声明 2015年07月01日 (水)

死刑執行に強く抗議し,改めて死刑執行を停止し,死刑制度の廃止についての全社会的議論を求める会長声明

 2015(平成27)年6月25日,名古屋拘置所において,1名に対して死刑が執行された。上川陽子法務大臣による初めての死刑執行であり,第2次安倍内閣以降,死刑が執行されたのは,2014(平成26)年8月以来7回目で,合わせて12名となる。

当会は,これまで当面の間死刑執行を停止し,その間に死刑に関する情報を広く国民に公開し,全社会的議論を踏まえた上で,死刑制度を見直すことを求めてきた。にもかかわらず,今回,再び死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,改めて死刑執行に強く抗議するものである。

 

 2014(平成26)年3月,静岡地方裁判所は,袴田巖氏の第二次再審請求事件について再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止するとの決定をした。現在,東京高等裁判所において即時抗告審の審理が行われている。もし袴田氏に対し死刑の執行がなされていたならば,まさに取り返しのつかない事態となっていた。袴田氏は48年ぶりに釈放されたが,その心身に不調を来しており,袴田事件は,えん罪の恐ろしさはもちろんのこと,死刑制度の問題点を浮き彫りにしている。

また,米国では,死刑事件については,スーパーデュープロセスとして,9審制や,必要的上訴制など,我が国と比べて手厚い手続保障があり,また,弁護費用や量刑資料等の調査にかかる費用等についても財政的手当がなされていることなどに鑑みると,我が国は,十分な手続保障と量刑資料の元であれば本来死刑になるべきではない者でも死刑となってしまう,いわゆる量刑誤判の危険性が高いという問題を抱えている。特に本件は,弁護人が被執行者の控訴の取下げ無効を主張し,また,共犯者については,上級審での審理の結果、量刑が死刑から無期懲役となっており,その結果,共犯者3名のうち被執行者のみが死刑となっている事案である。正に量刑誤判の危険性があった事案といえ,再審請求の準備中であったことからしても,執行は当然に見送られるべきであった。

 

 死刑の廃止は国際的な趨勢である。現在,死刑を存置している国は58か国あるが,昨年に実際に死刑を執行した国は,日本を含めわずか22か国であった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で死刑制度を存置している国は,日本・韓国・米国の3か国のみであるが,韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止しており事実上の死刑廃止国と評価されており,米国は19州が死刑を廃止している。こうした状況を受け,国際人権(自由権)規約委員会は,昨年,日本政府に対し,死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。

 

2014(平成26)年11月に実施された死刑制度に関する政府の世論調査の結果,「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であったものの,そのうち40.5%は「将来的には,死刑を廃止してもよい」とした。また仮釈放のない終身刑が導入されるならば,「死刑を廃止する方がよい」と回答している。この世論調査の結果も,死刑廃止についての全社会的議論の必要性を示している。

 

日本弁護士連合会が,死刑のない社会が望ましいことを見据えて,2011(平成23)年10月7日,第54回人権擁護大会において「罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め,死刑廃止についての全社会的な議論を呼びかける宣言」を採択したこと等を踏まえ,当会も,2012(平成24)年,会内に死刑廃止プロジェクトチームを設置し,死刑に関する議論を広めるべく活動を開始し,2013(平成25)年7月には市民参加の下,「死刑を考える日2013」を開催するなど,死刑のない社会を目指した議論を重ねてきた。今年度からは,中部弁護士連合会内にも死刑問題検討ワーキンググループが設置され,中部地方の各弁護士会とも連携して,より幅広く死刑廃止に向けた全社会的議論への取り組みを進めている。

 

このような状況下で,死刑制度とその運用に関する情報の公開がなされず,公の議論が何ら行われないまま,死刑執行だけが繰り返されていることは,到底容認できない。

 

 当会は,今回の死刑執行に強く抗議するとともに,死刑執行を停止することと死刑に関する情報を広く国民に公開することを要請し,死刑制度についての全社会的議論を踏まえたうえで,その抜本的な検討及び見直しを重ねて求めるものである。

 

 

2015年(平成27年)7月1日
福井弁護士会
会長 寺 田 直 樹

 

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