会長声明 2010年01月29日 (金)
取調べの可視化(全過程の録画)の早期実現を求める会長声明
2009(平成21)年5月,裁判員制度がスタートし,市民に開かれた刑事裁判という刑事司法の大きな変革が行われた。しかし,被疑者に対する取調べについては,依然として,警察官・検察官により,取調室という密室において行われ続けており,冤罪を生む危険性は変わらないままである。
近年判明した冤罪事件としては,鹿児島県の選挙違反事件(志布志事件)や,虚偽の自白がなされ,有罪判決を受けるに至った富山県の強姦事件(氷見事件)などが挙げられる。これらは,無実の人間が,いずれも取調室という密室において,警察官あるいは検察官により,虚偽の自白を強要され,耐えきれずに虚偽の自白をしたことにより,起訴され長期間身体拘束を受けた事件であり,氷見事件では,有罪判決が確定し,刑務所で服役までさせられることになった。また,2009(平成21)年6月,1990(平成2)年に栃木県足利市で発生した幼女誘拐殺人事件(足利事件)の再審開始が決定され,現在,再審公判が続けられており,さらに同年12月には,1967(昭和42)年茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件(布川事件)について,最高裁の決定により再審が開始されることが決まったが,これらの事件においても,取調室という密室における取調べにおいて,虚偽の自白を強要され,虚偽の自白がなされるに至り,虚偽の自白が聴取された供述調書が公判において重要な証拠とされ,無期懲役の有罪判決がなされ,長期間の服役を余儀なくされた。
ところで,現在,検察庁・警察は,裁判員裁判対象事件についてのみ,その取調べの一部を録画しているが,取調べの一部を録画したとしても,何ら冤罪の防止にはならないばかりか,冤罪を生み出す危険性すらある。
先に述べた足利事件,布川事件においても,捜査機関が取調べの一部を録音しているが,それらの録音テープは,被疑者が自らの無実を訴えて否認していたものの,取調べに耐えられず自白するに至ってしまった後に,改めてその自白を録音したものであった。そして,布川事件において,裁判所は,それらの録音テープを根拠に,自白が任意になされたものと判断し,自白を有力な証拠として,有罪判決を言い渡した。検察庁・警察において現在行われている取調べの一部録画も,正に被疑者による自白がなされた後,自白の調書が作成され,その内容を確認する部分を録画するものとなっており,取調べの一部を記録したとしても,何ら冤罪の防止とならず、冤罪を生み出す危険性があることは,既に上記の冤罪事件が証明している。
真に冤罪を防止するためには,どういう取調べがなされたのか,どういうやりとりがあって自白がなされたのかを後に確認できる状況にしておくことこそが重要である。そして,そのためには,取調べの全過程を録画すること以外に方法はない。
刑事裁判において最も避けられなければならないことは無実の人を罪に問わないことにある。冤罪を防止するためにも,一刻も早く,取調べの全過程を録画するようにしていかなければならない。
当会は,国会に対して,取調べの全過程の録画を義務づけることの立法化を早急に行うよう求めるものである。
2010(平成22)年1月29日
福井弁護士会
会長 黛 千 恵 子