2020年04月09日 (木)
R1.6.13 後見人の利益と本人の利益がぶつかるとき 岩﨑史明
Q:私は,高齢の父の後見人に選任されています。
先日,母が亡くなり,母の遺産の相続をすることになりました。私には兄弟姉妹はいませんので,父と私が母の相続人です。父と私との間で,母の遺産の分け方を決めることになるのですが,私は父の後見人でもあります。私は,母の遺産分けの手続においても父の代理人の役割を果たしてもよいのでしょうか?
A:このケースの場合,あなたが多くの財産を相続すれば,お父さんの相続する財産は少なくなり,逆にあなたの分が少なくなれば,お父さんの分が多くなります。このようにお互いの利益がぶつかり合ってしまう場合には,後見人が本人すなわち被後見人の代理人として行動することは禁止されています。
後見人の役割は,被後見人の財産を守ることにあるわけですから,やむを得ない制限といえるでしょう。このような場合には,家庭裁判所で,その事柄を処理するための別の代理人を選任してもらわなければなりません。これを特別代理人と言います。
したがって,あなたは,遺産分けの手続においてお父さんの代理人として行動することはできません。家庭裁判所に特別代理人を選任してもらう必要があります。そして,選任された特別代理人とあなたとの間で遺産の分け方を協議することになります。なお,特別代理人に選任されるためには,特に資格は必要ありませんが,弁護士などの専門職が選任される場合が多いようです。
ただし,以上の話には例外があります。それは,後見監督人が選任されている場合です。 後見監督人は,後見人の事務を監督する者として必要に応じて家庭裁判所が選任します。 後見監督人が選任されているケースにおいては,後見人と被後見人の利益がぶつかり合う場合には,後見監督人が被後見人を代理するものとされています。
したがって,あなたのケースにおいても,後見監督人が選任されている場合には,後見監督人がお父さんを代理することになりますので,特別代理人を選任してもらう必要はありません。 後見人と被後見人の利益がぶつかり合ってしまうケースは他にもあります。どのような場合に特別代理人の選任が必要になるのか,専門的な判断が必要な場合もありますので,家庭裁判所や弁護士に相談されることをお勧めします。