弁護士の活動

声明・意見書

行政書士法改正に反対する会長声明

1 日本行政書士会連合会は,行政書士法を改正して,「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求,異議申立,再審査請求等行政庁に対する不服申立について代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求めてそのための運動を推進しており,日本行政書士政治連盟によれば,法案を「何時でも国会に提案できる」状況にあるとされている(同連盟ホームページ会長挨拶)。早ければ次期通常国会にも,前記業務を行政書士の業務範囲とする行政書士法改正案が,議員立法として提出される可能性がある。

 しかし,行政書士法改正により行政書士に行政不服申立等の代理業務を認めることには,以下の問題点がある。
2 第1に,そもそも,行政書士の主たる職務は,行政手続の円滑な実施に寄与することを主目的として,行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出するというものである。一方,行政不服申立制度は,行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し,国民の権利利益を擁護するための制度である。したがって,行政書士がこれまで従事してきた業務の性質及びそこで培われた能力と,国民と行政が鋭く対立する行政不服申立手続における代理人の役割及び求められる能力とが,相当に性質を異にするものであることは明らかであり,行政との対立関係に身を置く経験の乏しい行政書士が,行政不服申立の代理人となることにより,国民の権利利益が損なわれることが強く懸念される。
3 第2に,行政書士試験に行政不服審査法が必須科目になっていることが,行政書士の行政不服申立の代理人としての能力を担保すると主張されているが,誤りである。行政不服申立の代理行為は,その後の行政訴訟の提起も十二分に視野に入れて行うべきものであり,訴訟実務に通暁しない行政書士が,行政不服審査法の知識を有しているからといって,能力が担保されたということは到底できない。これでは,行政機関による人権侵害から国民の権利利益を守ることはできない。
4 第3に,行政不服申立等は,国民と行政庁とが鋭く対立するものであるが,行政庁の懲戒権に服し(行政書士に対する懲戒処分並びに行政書士会に対する監督は都道府県知事が行い,日本行政書士連合会に対する監督は総務大臣が行うものとされている。),当事者の利害対立を前提に資格が構築されていない行政書士が代理行為を行うことにより,国民の権利利益が損なわれることが強く懸念される。
5 第4に,職業倫理の面においても,行政書士会は紛争事件を取り扱うに足る職業倫理規定をもたず,行政書士は紛争事件を取り扱うに足る職業倫理について十分な訓練を受けているとはいえない。すなわち,日本行政書士会連合会が定める行政書士倫理綱領は,「使命に徹し,名誉を守り,国民の信頼に応える」「法令会則を守り,業務に精通し,公正に職務を行う」「相互の融和をはかり,信義に反してはならない」等のごく一般的な内容に過ぎず,その他の行政書士倫理の規定をみても,利益相反等に関する規定等の当事者の利害が鋭く対立する紛争事件を取り扱うことを前提とする規定はなく,この点で利益相反等の職務を行い得ない事件について具体的規定を有する弁護士倫理とは大きく異なっている。これでは,紛争当事者となった国民の権利利益が損なわれるおそれがある。
6 第5に,行政書士に行政不服申立等の代理人にしなければ代理人が不足するものではなく,立法事実を欠く。弁護士は,これまでも,出入国管理及び難民認定法,生活保護法,精神保健及び精神障害者福祉法等に基づく行政手続等の様々な分野で,行政による不当な処分から社会的弱者を救済する実績を上げている。そして,2013年7月1日現在,弁護士数は3万3628人であり,さらに今後も増加している現状からすれば,行政不服申立等の代理人は十分供給されているといってよい。
  よって,当会は,行政書士が行政不服申立等の代理人になることについて,強く反対するものである。

2013年(平成25年)12月11日
福井弁護士会
会長 島 田   広

2013年12月11日

会長声明