弁護士の活動

声明・意見書

特定商取引法の見直しに関する意見書

第1 はじめに――消費者被害の現状

 

1976年に成立した「訪問販売等に関する法律」は、その時々の社会に生じた消費者問題に応じる形で改正が重ねられ、2000年改正で「特定商取引に関する法律(以下「特商法」とい う。)」に改められて以降も、同様に改正が繰り返されてきた。

 

特商法の2016年改正(以下「2016年改正」という。)がなされるにあたっては、衆議院および参議院の消費者問題を扱う委員会においては、高齢者等に対する訪問販売および電話勧誘販 売による被害の未然防止が喫緊の課題であって、引き続き高齢者等の被害が多発した場合には勧誘規制の強化についての検討を行うことや、インターネット取引に係る消費者被害が大きく増加している現状に鑑み、実効的な被害の未然防止および救済措置について検討を行うこと等8項目の附帯決議がなされた。また、2016年改正の附則第6条では、施行後5年経過後の施行状況を踏まえ、必要があるときは所要の措置を講じるものとする旨が規定された。

 

2016年改正は2017年12月1日に施行されたところ、施行後の2018年以降の消費生活センターへの消費生活相談の状況についてみると、北陸三県(富山県・石川県・福井県)における60歳以上の高齢者の訪問販売および電話勧誘販売に関する相談件数は、2018年度に2,558件、2019年度に2,427件、2020年度に2,485件、2021年度に2,329件となっている(国民生活センター消費生活相談データベースより。以下同じ。)。コロナウィルス感染症拡大による相談控えの影響を考慮に入れると、実質的にはほぼ減少していないといえる。社会の高齢化が今後進めば、被害者数は増加に転じるおそれがある。

 

北陸三県における通信販売に関する相談件数は、2018年度に6,842件、2019年度に6,662件、2020年度に8,104件、2021年度7,031件と、増加傾向にある。インターネットを用いた通信販売は、今後ますます拡大していくと考えられ、更なる被害の増加が懸念されるところである。

 

また、北陸三県における20歳代の若者のマルチ取引に関する相談件数は、2018年度に132件、2019年度に121件、2020年度に147件、2021年度に137件と、減少傾向は見られない。

 

このように、2016年改正から5年が経過し現在でも、北陸三県において消費者被害はいまだ多数存在し、新たな被害が日々生まれ続けているのが現状である。したがって、2016年改正の附則6条に基づく「所要の措置」として、訪問販売・電話勧誘販売、通信販売および連鎖販売取引を中心に、更なる法改正等をする必要がある。

 

第2 訪問販売・電話勧誘販売に関する改正

 

1 拒否者に対する訪問勧誘の規制

 

特商法第3条の2第2項は、訪問販売に関して、業者が「契約を締結しない旨の意思を表示した」者に対し契約の締結を勧誘することを禁じている。もっとも、住宅の玄関で時折見掛ける「訪問販売お断り」と記載された張り紙は、条例が制定されている一部地域を除き、法的に訪問販売を禁止する効果に疑義がある。この場合は意思表示の相手方等が特定されておらず、意思表示に当たらないとの解釈を消費者庁が示しているからである。

 

しかし、事前の包括的な拒否が認められないとすると、例え張り紙をしていたとしても、消費者が来訪した個々の事業者に応対して、その都度拒否の意思表示を伝えなければ、禁止の効果が生じないこととなる。そして、いったん応対をすれば、その時に勧誘を受けて、消費者被害に至るおそれがある。

 

このような被害を防止するため、張り紙等によりあらかじめ拒否の意思表示をした場合も同項の禁止の効果が生じることを明確化する法改正をすべきである。

 

2 拒否者に対する電話勧誘販売の規制

 

電話勧誘販売についても、訪問販売と同様の問題がある。すなわち、特商法第17条は、電話勧誘販売に関して、業者が「契約を締結しない旨の意思を表示した」者に対し契約の締結を勧誘することを禁じているが、特段の措置を講じなければ、電話を掛けてきた業者に対し電話に出た上で、その都度拒否の意思表示を伝えなければならず、その際に勧誘を受けて消費者被害を受けるおそれがある。

 

電話機の留守番応答機能や迷惑電話対応装置を用いて消費者が電話に出ることなく拒絶の意思を伝えることが可能ではあるものの、経済的負担や事業者以外の者からの電話に対しても応答メッセージを流すことになってしまう不都合がある。

 

そこで、勧誘を拒否したい電話番号の登録制度を導入すべきである。すなわち、電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録した上で、事業者は保有する電話番号をあらかじめ登録機関に照会して登録がない場合にのみ勧誘の電話を掛けることができるというものである。

 

3 勧誘代行業者の規律

 

特商法による訪問販売や電話勧誘販売の行為規制は、「販売業者」や「役務提供事業者」である(特商法第2条第1項参照)。しかし、近年、勧誘行為の外部委託が進み、販売や役務提供をする事業者が勧誘行為をしないケースが増えている。しかし、勧誘行為の委託を受けた者(勧誘代行業者)は、「販売業者」や「役務提供事業者」そのものではないため、行為規制が及ぶか議論がありうるところである。

 

そこで、勧誘代行業者に対しても訪問販売や電話勧誘販売の行為規制が及ぶことを明示する法改正をすべきである。

 

4 訪問販売や電話勧誘販売をしようとする事業者の登録制の導入

 

訪問販売や電話勧誘販売は、店舗を持つことなく営業を行うことが可能な事業形態である。そのため、信用力の低い事業者の参入も容易であり、また、不正行為を行っても所在を点々と変えて追及をかわしながら事業を続けることも可能である。

 

そこで、飲食店の営業許可等にならい、訪問販売や電話勧誘販売でも店舗販売に準じる信頼を確保することができるように、登録制を導入すべきである。

 

なお、訪問販売や電話勧誘販売の事業者登録制度は、全く新しい制度ではなく、既に国内外で先行事例がある。たとえば、国内では、訪問販売について、滋賀県野洲市が条例により事業者の登録制を実施している。国外では、訪問販売について、韓国・中国・アメリカの自治体等において訪問販売業または訪問販売員の届出制・許可制が採用され、電話勧誘販売について、電話勧誘拒否登録制度のある国では、消費者の登録の有無を確認するために事業者自身の登録が必要であり、事実上の登録制となっている。また、他分野では、食品衛生法の営業許可、建設業法や宅地建物取引業法等の登録制や許可制が既にある。

 

第3 通信販売に関する改正

 

1 訪問販売や電話勧誘販売と同様の制度の整備

 

特商法に規定された取引形態のうち、訪問販売や電話勧誘販売等には、氏名等の明示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止等の行政規制があるが、通信販売にはこのような規定がない。また、特商法上の他の取引形態には存在するクーリング・オフや不実告知による取消権が、通信販売にのみ存在しない(商品の引渡等から8日以内に契約を解除できる制度はあるが、特約で排除・変更が可能なものでしかない。)。

 

しかし、近年は、消費者が積極的に通信販売業者(以下「通販業者」という。)のウェブサイトを閲覧して申込みをするのではなく、消費者が利用しているSNSを通じて送られてくるメッセージがきっかけで勧誘され、申込みに誘導されたり、消費者の検索・閲覧履歴等を用い、その好みに合わせた広告が画面上に突然割り込むように表示され送られ、ほかの選択肢を能動的に検討できないままリンク先の申込み画面によって申込みに誘導されたりする例が多い。

 

これらは、勧誘や広告の表示が突然一方的に示され、不意打ち性が高い点、および、消費者のスマートフォンやパソコン等の私的領域内で展開され、一対一のやり取りが中心となるため、密室性が高い点で、訪問販売や電話勧誘販売と類似している。また、SNS等による繰り返しの勧誘や、動画を利用した勧誘は、攻撃性が高い点で訪問販売に類似している。さらに、相手が見えず、相手の素性や様子が分からないまま勧誘されるため、匿名性が高い点、および、SNS等でのやり取りや、ウェブ説明会、動画サイト、無料通話アプリによる通話等に基づいて締約締結がなされる場合、契約内容があいまい・不確実になる点で電話勧誘販売に類似している。

 

したがって、通信販売にも、訪問販売や電話勧誘販売と同様に、事業者に対し行政規制を加え、消費者にクーリング・オフや不実告知による取消権を与える法改正をすべきである。

 

2 継続的契約に関する中途解約権の整備

 

通信販売により継続的な役務提供契約を締結する場合、役務の内容を把握しづらく、消費者が契約内容を十分に理解しないままに契約を締結してしまうことが少なくない。また、提供される役務が想定していたものと異なったり、消費者側の事情が変わったりするなどして、解約が必要なケースもある。

 

継続的契約についての特商法上の類型である特定継続的役務提供契約は、指定役務に該当しなければ中途解約が認められない。

 

そこで、通信販売によって締結された継続的契約全般について、特定継続的役務提供契約と同様に中途解約権を認め、その場合に消費者が負担する損害賠償額の上限を定めるよう、法改正をすべきである。

 

3 解約・返品に関するインターネット通販業者の受付体制整備義務の新設

 

インターネット上の通信販売に関するトラブルの1つに、購入はウェブサイト上で行ったにもかかわらず、解約受付はウェブサイト上で行っていなかったり、解約受付に際して個人情報に関する証明資料等を要求したりするなどして、解約・返品を困難にするケースがある。そこで、インターネット通信販売においては、消費者が解約を希望する場合、契約申込みと同様の方法(=ウェブサイト上の手続)による解約申出の方法を認めることを通販業者に義務付け、解約・返品の申出に当たり個人情報に関する証明資料を要求することを禁止する法改正をすべきである。

 

また、「電話による解約のみ受け付ける」旨表示しておきながら、消費者が事業者に電話してもつながらず、その間に解約申出可能期間が経過してしまったことを理由に、解約・返品を拒むケースも散見される。これに対しては、解約の意思表示が事業者に到達することを妨害したものであるから、民法第97条第2項により、解約の申出が事業者に到達したものとみなすことも考えられる。しかし、妨害したとの評価が必ずしも容易ではない。そこで、通販業者が電話による解約申出を認める場合に、消費者が解約可能期間内に解約申出のために電話をしたにもかかわらず、電話がつながらなかったことによって解約の意思表示ができないまま期間を経過したとしても、期間内に解約の申出があったものとみなすよう、法改正をすべきである。

 

なお、先行する立法例として、カルフォルニア州法では、自動更新または継続サービスを消費者にオンラインで受領させている事業者は、消費者がホームページ上のボタン等をクリックしたり、追加の情報提供なしに終了告知の電子メールを送信したりして、オンラインでのみサービスを終わらせることを認めなければならないものとされている(CA Bus & Prof Code § 17602 (2022))。

 

4 インターネット広告画面の規制強化

 

インターネット通信販売に関しては、2022年6月施行の特商法第12条の6により、契約申込み手続が表示されるページ(いわゆる最終確認画面)の表示方法に関する規制が設けられた。そのため、例えば、定期購入契約の最終確認画面において、最初に引き渡す商品等の分量やその販売価格を強調して表示し、その他の定期購入契約に関する条件を、それに比べて小さな文字で表示したり、離れた位置に表示したりすることにより、定期購入契約ではないと誤認させるような場合、消費者は、特商法12の6第2項第2号の誤認をしたことを理由に、第15条の4により、取消権の行使を検討できるようになった。

 

しかし、広告については、特商法第12条により、「著しく事実に相違する」表示や、「実際のものよりも著しく優良・有利である」と誤認させるような表示は禁止されているものの、「著しく」という要件があるために適用範囲が狭く、規制として不十分である。そこで、インターネット広告に関しても有利な契約条件と不利な契約条件や、商品等の品質や効能が優良であることを強調する表示とその意味を限定する表示等を、分離させずに一体的に記載することを義務付けた上、それに違反する行為を特商法第14条第1項第2号の指示対象行為に加え、違反に対する取締りを可能にする法改正をし、禁止される表示例を明確化するガイドラインを制定すべきである。

 

5 インターネット広告等の表示中止・変更後の行政処分

 

通販業者が誇大広告等の禁止や、最終確認画面等における表示規制に違反した場合、主務大臣による行政処分の対象となる。しかし、行政処分をするには、通信販売にかかる取引の公正や、購入者または役務の提供を受ける者の利益が害されるおそれがあるときという要件も充足していなければならない。

 

インターネット広告やインターネット通信販売における最終確認画面は、表示の中止や変更が容易に行えるため、通販業者は、一時的に中止または変更をして上記おそれが消滅したと反論し、後に表示を復活させるという対応をとることがある。

 

そこで、通販業者がインターネット広告やインターネット通信販売における最終確認画面の表示を中止した後も行政処分が可能であることを明確化する法改正をすべきである。

 

6 インターネット上の広告、最終確認画面等の保存、開示および提供義務の新設

 

インターネットを利用した定期購入契約において、契約条件が広告や最終確認画面に適切に表示されていなかったことによってトラブルとなった場合、消費者がその旨を申し出たとしても、インターネット上の広告や最終確認画面の表示は中止や変更が容易なため、消費者が購入したときのものが維持されておらず、事業者側から適切に表示していた旨の反論を受けることがある。そうなった場合、消費者は、取消権の行使に困難を来すことになる。

 

そこで、インターネット通販業者に対し、広告や最終確認画面、広告・勧誘動画を保存すること、消費者からの開示・提供請求に応じることを義務付けるよう法改正をすべきである。

 

なお、このように義務付けても、インターネット通販業者は、容易に義務を履行することができ、過度な負担とはならない。

 

7 事業者の特定に関する情報の表示義務と開示請求権の新設

 

民事訴訟を提起するには、被告となる者の氏名(名称)や住所を記載しなければならない(民事訴訟法第133条、民事訴訟規則第2条第1項第1号)。しかし、特商法上、通販事業者が氏名(名称)、住所および電話番号を表示する義務を負うのは広告をするときに限られ、個別の勧誘時にこの規制が及ぶかは文言上明らかではない。また、勧誘代行業者が被告になる場合も考えられるが、勧誘代行業者は、直接的な規制の対象になっていない。しかも、インターネット上の勧誘は匿名性が高いため、勧誘者の特定が困難であることが多い。

 

そこで、インターネット上の勧誘時も含めて表示義務の対象とするように法改正をすべきである。

 

もっとも、通販事業者や勧誘代行業者が表示義務を遵守せず、氏名等をしないまま取引を行うケースも考えられる。この場合は、通販事業者や勧誘代行者に関する情報を持っている可能性の高いSNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に開示請求することが考えられる。しかし、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示関する法律(プロバイダ責任制限法)は、「不特定の者」によって受信されることを目的とする電気通信によるものに限定しており、通販事業者や勧誘代行者により勧誘が行われた場合は該当しない。

 

そこで、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対し、通販事業者や勧誘代行業者を特定するために必要な情報の開示を請求できるようにする立法措置を講じるべきである。

 

8 適格消費者団体の差止請求権の拡充

 

通販業者等が上記1~4および6で提案する義務を履行する実効性を担保するため、それらの義務違反行為を適格消費者団体の差止請求権の対象に含めるよう法改正すべきである。

 

また、インターネット広告等の表示中止・変更後であっても、行政処分ができる要にすべき旨上記6で提案したところであるが、適格消費者団体の差止請求権も同様に認めるべきである。

 

第4 連鎖販売取引について

 

1 開業規制の導入

 

消費生活センターに寄せられた北陸三県におけるマルチ取引に関する相談のうち、20歳代以下の若者の割合は、2018年度から2021年度の平均で44.7%である。相談全体おける20歳代以下の若者の割合が9.6%であることからすると、マルチ商法に関する被害は、若者に対し特徴的に表れているといえる。

 

そして、近時、マルチ取引は、物品ではなく、投資・副業・暗号資産等の利益収受型の物品または役務を対象にする、いわゆる「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加している。特に、情報商材を対象としている場合、それ自体で利益を収受し得るものであり、販売目的物と販売システムによる二重の利益を収受し得るかのような勧誘行為が行われる。その結果、適正なリスク告知がなされず、構造的に誤認を招くおそれが大きい。

 

勧誘方法も、特に若者を対象に、メールやSNS等インターネットを利用したつながりで行われるものが増加している。このようなインターネットで完結するマルチ取引の場合特に、組織の実態、中心人物やその連絡先を知ることができず、自分を勧誘した相手方の素性も分からないことが多く、被害回復を困難にしている。

 

そのため、連鎖販売取引業者には、組織、責任者、連絡先等を明確化し、取扱商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組み、収支・資産の適正管理体制、トラブルが生じた場合の苦情処理体制や責任負担体制の明確化が求められる。

 

そこで、事業者が行う連鎖販売取引を始めるに当たって、金融商品取引法や無限連鎖講の防止に関する法律などに違反するおそれや、二重の利益を収受し得るかのような勧誘行為などにより取引が適正に行われないおそれなど審査した上で、その様なおそれがある場合は登録を拒否するような制度を導入するべきである。そして、その実効性を確保するため、この開業規制に違反して連鎖販売取引を行った事業者は、刑事罰の対象とすると共に、無許可で行われた連鎖販売取引における取引の相手方は契約の申込みや承諾の意思表示を取り消すことができるようにすべきである。

 

2 後出しマルチ等の規制

 

近時、「後出しマルチ」と呼ばれる脱法的なマルチ取引のトラブルが増加している。「後出しマルチ」とは、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込むという手法のマルチ取引のことである。

 

特商法に規定する連鎖販売取引は、特定利益を収受し得ることをもって誘引し、特定負担を伴う取引をすることを要件としている。後出しマルチを展開する事業者は、特定負担の契約締結時に、特定利益を収受し得ることを誘引行為として用いていないから連鎖販売取引には当たらないと主張し、クーリング・オフによる解約に応じない対応を示す事案も少なくない。

 

後出しマルチは、大学生などの若者が主なターゲットとされ、投資に関する情報商材等の利益収受型の物品や役務の売買契約が先行してなされるものが多い。ターゲットにされた若者は、容易に利益が得られるかのような勧誘を受けて高額な物品や役務を売りつけられ、借金をしてまで購入したものの、勧誘時の説明と異なって利益が得られず、借金の返済に窮したところで、他の者を勧誘して契約を獲得すれば特定利益が得られる旨の誘引文句を聞き、自らも勧誘員として新規契約者の勧誘に走る、という構造である。後出しマルチの手法により勧誘員となった者は、販売対象の物品や役務が当初の説明どおりの価値がないことを認識した上で他の者を勧誘するため、新規契約者を獲得することによって利益を得ることを目的とした不当な勧誘が繰り返されることになる。

 

このような脱法的な後出しマルチを明確に規制対象とするため、連鎖販売取引を定義する特商法第33条第1項を改正し、特定利益を収受し得る仕組みを設定していながら、そのことを故意に告げないで特定負担を伴う契約を締結させ、その後に特定利益を得るための取引を勧誘することを連鎖販売取引の拡張類型として規定すべきである。

 

そして、利益収受型取引の相手方に対して後出しで紹介利益の収受を勧誘すること自体が構造的に不適正な勧誘が繰り返されることにつながるおそれがあるため、それが連鎖販売取引の拡張類型に当たるか否かにかかわらず、類型的に適合性に欠ける者、すなわち、22歳以下の若者、先行する契約で投資等の利益収受型の取引を締結した者、および先行する契約で借入金等の債務を負った者に対する紹介利益提供の勧誘は禁止するよう法改正すべきである。

 

3 連鎖販売取引における特定利益の計算方法等の説明義務、および業務・財務等の情報開示義務の新設

 

連鎖販売取引は、これに加入することで当該加入者および他の構成員の販売活動により利益を得ることを目的とした投資取引の一種であると考えることができる。また、新規加入者が後続の加入者を順次勧誘するという特性から、「必ずもうかる」等の不実告知や断定的判断の提供といった不当な勧誘が行われやすく、誤認による契約を招くおそれがある。

 

そこで、特定負担についての契約を締結しようとする連鎖販売を行う者には、その相手方に対し、①収受し得る特定利益の計算方法、②特定利益の全部または一部が支払われないことになる場合があるときはその条件、③最近3事業年度において加入者が収受した特定利益(年収)の平均額、④連鎖販売を行う者その他の者の業務または財産状況や特定利益の支払の条件が満たされない場合等により、特定負担の額を超える特定利益を得られないおそれがある旨の説明を義務付ける法改正をすべきである。

 

また、①統括者がその連鎖販売業を開始した年月、②直近3事業年度における契約者数・解除者数・各事業年度末の連鎖販売加入者数、③直近3事業年度における連鎖販売契約についての商品または権利の種類ごとの契約の件数・数量・金額、または役務の種類ごとの件数・金額、④直近3事業年度において連鎖販売加入者が収受した特定利益(年収)の平均金額を概要書面および契約書面に記載しなければならないものとするとともに、統括者には、これらの事項並びにその連鎖販売業に係る直近の事業年度における業務および財産の状況を連鎖販売加入者に開示することを義務付けるべきである。

 

 

令和5年(2023年)5月10日

福井弁護士会会長  麻 生  英 右

2023年05月10日

意見書