弁護士の活動

声明・意見書

労働時間規制を緩和する「労働基準法等の一部を改正する法律案」の閣議決定に反対する会長声明

1 厚生労働省は,2015年2月17日,労働政策審議会に対し,「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」を諮問し,同審議会は,同年3月2日,おおむね妥当であると答申した。この答申を受けて,政府は,同年4月3日,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下,「改正案」という。)を閣議決定し,同改正案が本年の通常国会において審議される予定である。

改正案では,高度の専門的知識等を必要とする業務に従事し,一定の年収要件を満たした労働者について,労働時間規制を緩和する「特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」と称する制度(以下,「新制度」という。)が創設されている。

しかし,新制度は,長時間過重労働を助長するものであり,労働者の生命及び健康を害する重大な危険をはらんでおり,到底容認できない。

2 現行労働基準法は,1日8時間1週40時間の法定労働時間を定め,使用者は,労働者に対し,原則として法定労働時間を超えて労働させてはならず,例外的に法定労働時間を超えた労働をさせるためには,36協定を締結し,残業時間に応じた割増賃金を支払わなければならないこと等を義務付けている。

このような労働時間規制は,無制約な長時間過重労働を抑止し,労働者の生命及び健康を守るとともに,家庭生活や社会生活の時間を確保すること(ワークライフバランス)を目的としている。

もっとも,現行法制下でも,長時間労働やこれを原因とする過労死,過労自殺,精神疾患などの健康障害が蔓延しており,このような深刻な長時間労働の実態を是正し,労働者の生命と健康を守ることが,喫緊の重要課題となっている。政府は,2014年通常国会において過労死等防止対策推進法を成立させており,過労死防止対策を促進させることは今や政府の責務でもある。

3 ところが,新制度による労働時間法制の規制緩和は,労働者の更なる長時間過重労働を助長するものであり,長時間労働の抑止に逆行するものである。そもそも,業務内容の専門性や年収が多いことは,労働時間規制を緩和し,労働者の生命及び健康を危険にさらすことを容認する根拠とならない。新制度は,時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えることを目的としているところ,現行法でも,時間ではなく成果で評価される制度の導入は可能であるし,実際に成果型賃金制度などという形で多くの職場で既に導入されている。

さらに,新制度の適用対象労働者の業務は,「高度の専門的知識等を必要とし,その性質上従事した時間と成果との関連性が通常高くない」ものとされているが,抽象的な要件であるため拡大解釈のおそれがある上,具体的対象業務は省令で定めるとされているため法改正によらずに適用対象業務が拡大される危険性もある。

また,適用対象労働者の年収要件についても,「使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準」とされているものの,ひとたび新制度が導入されれば,なし崩し的に年収要件が引き下げられ適用対象労働者が著しく拡大していくおそれがある。

この点,改正案では,健康・福祉確保措置を講じることや,対象労働者の同意が要件とされているものの,健康・福祉確保措置は長時間労働の歯止めとしてはあまりに緩やかである。また,労働者が同意を拒否することも現実的には難しいと考えられることから,制度適用の歯止めとはなり得ない。

4 以上より,労働時間法制を緩和する新制度を導入することは,長時間過重労働を助長するものというほかなく,労働者の生命及び健康を害する重大な危険をはらんでおり,当会はこれに強く反対する。

 

2015年(平成27年)4月6日

福井弁護士会

会長 寺 田 直 樹

2015年04月06日

会長声明