弁護士の活動

声明・意見書

中池見湿地のラムサール条約登録範囲に悪影響を与えないよう北陸新幹線ルートの再検討を求める会長声明

湿地は,生物多様性に富み,多くの野生生物の命を支えているだけでなく,人類に食料を提供し,洪水調節,水質の保全・汚染緩和など人の生存を支えている。このような湿地の重要性が国際的に認識されたことから,1971年に湿地保全に関するラムサール条約が採択され,我が国も1980年に批准した。

本県の敦賀市にある中池見湿地は,周囲の三山からの表流水や,湧水,地下水など多様な涵養水源を有し,カエル,トンボなどが多数生息し,多様な生態系が育まれている。また,世界的にも例がない40メートルを超える泥炭層は,これを調査することによって過去10万年間の気候変動などを知ることができる学術的に貴重な資料であり,将来に受け継がれるべき人類の至宝である。

中池見湿地は,一時,液化天然ガス備蓄基地の候補地となり,消滅の危機にさらされたが,市民や環境NGOの粘り強い保全運動により,2002年4月に基地建設計画が中止された。また,2005年2月には当会が日弁連等と共催して中池見湿地のラムサール条約登録について考えるシンポジウムを開催する等,湿地保全を求める動きが広がり,2012年3月には中池見湿地及びその周辺部の山地が越前加賀海岸国定公園に編入されるとともに,中池見湿地の集水域部分は第2種特別地域に指定され,同年7月には当該指定された範囲がラムサール条約登録湿地として登録された。

一方,北陸新幹線計画については,環境影響評価法に基づく環境影響評価手続が2002年1月に終了し,環境影響評価書が提出されているが,この段階での新幹線予定ルートは,現在のラムサール条約登録範囲の東端部を横切るものではあったが,後谷を通過するものではなかった(以下「アセスルート」という。)。ところが,2005年12月に南越・敦賀間の工事実施計画の認可申請がなされ,その際の中池見湿地周辺の予定ルートは,上記アセスルートより約100m湿原部に移動した位置に変更され(以下「認可ルート」という。),湿地への悪影響がより大きくなった。その後,2012年6月になって工事実施計画が認可され,地元説明会等で初めて認可ルートへの変更が公表された。一方,独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下「鉄道・運輸機構」という。)は,有識者の提言を踏まえ,認可ルートからのルート変更を検討している。

この点,認可ルートは中池見湿地への悪影響が極めて大きいが,アセスルートも中池見湿地のラムサール条約登録範囲内を横切って通過するもので,国際的な保全の約束上,問題がないとはいえない。また,事後調査検討委員会の水文調査結果等中間報告によっても,両ルートの中池見湿地地下水の涵養量へ影響は未解明であり,同湿地の国際的な特徴である湿原部の厚い泥炭層に対する不可逆的な悪影響を否定できない。高速運行を前提に計画される新幹線において,当面の終着駅となる敦賀駅と中池見湿地の位置関係から,とり得る線形に一定の制約があるが,敦賀市内での線路中心線の決定や設計協議は未了であり,敦賀新幹線駅ホームの位置・構造の変更等,新幹線の工事基準の範囲内で登録湿地範囲を避け,湿地への影響を最小化するルートをとることは可能である。

よって当会は,中池見湿地がその生物多様性及び地質学的希少性から自然公園法で保護され,国際的にはラムサール条約登録湿地となって,十全な保全が求められていることに鑑み,鉄道・運輸機構が認可ルートを見直す姿勢を示したことに一定の評価をすると共に,同機構に対し,中池見湿地を通過しないルートへの変更可能性,その他湿地への影響を更に少なくする方策を真摯に検討することを求める。

以上

2015年(平成27年)3月27日

福井弁護士会

会長 内 上 和 博

2015年03月27日

会長声明